中国の大手証券会社であるCITIC(中信)証券(CITIC Securities)は最新の調査リポートで、2024年の中国株式市場における投資戦略として、AI(人工知能)セクターとエネルギー・化学セクターを組み合わせる「バーベル戦略」を提言した。高成長を追求するAIと、需給逼迫による価格上昇が見込めるエネルギー・化学という異なる性質の資産を両輪とすることで、安定した収益確保を目指す。この提言は、2023年に主流だった「AI+高配当株」という組み合わせからの戦略転換を示唆しており、市場の関心を集めている。

「高配当」から「供給制約」へ、戦略転換の論理

CITIC(中信)証券が提唱する「バーベル戦略」とは、ポートフォリオの両端に異なるリスク・リターン特性を持つ資産を配置する投資手法だ。今回の提言の核心は、一方の端に拠える「安定資産」の定義を、従来の公益事業や大手銀行などの「高配当株」から、供給制約によって価格決定力を持つ「エネルギー・化学セクター」へと変更した点にある。

CITIC(中信)証券の最新リポートは、市場の主要な需給ギャップと収益機会がこの分野に集中すると予測。不動産市場の低迷が長期化し、景気回復が緩やかな中で、安定配当だけでは成長の牽引役として力不足と判断したとみられる。代わりに、新エネルギーや先端材料といった中国が国策として推進する分野で、供給ボトルネックを握る企業群に新たな価値を見出している。これは、単なる景気循環型の投資から、より構造的な強みに着目した投資へのシフトを意味する。

中国製造業の「価格決定力」再評価という潮流

今回の戦略転換の背景には、中国の製造業、特に新エネルギーや化学、非鉄金属といった分野における「価格決定力」が再評価されているという大きな潮流が存在する。過去数年間、中国は太陽光パネル、車載電池、電気自動車(EV)などの分野で世界市場を席巻し、関連する素材のサプライチェーンにおいても支配的な地位を築いてきた。

例えば、車載電池に不可欠な炭酸リチウムや、モーターに使われるレアアース(希土類)は、中国が世界の生産・精製能力の過半を占める。2021年から2022年にかけて見られた炭酸リチウムの価格高騰は、供給を一部の国や企業が握ることのインパクトを市場に強く印象付けた。CITIC(中信)証券は、こうした供給制約が常態化する品目において、中国企業が価格交渉で優位に立ち、安定した収益を確保できると分析している。これは、かつて「世界の工場」として安価な製品を供給してきた中国企業が、バリューチェーンの上流を抑えることで利益構造を転換させようとする国家戦略「双循環」の動きとも符合する。

「量的拡大」と「供給支配」、二つの構造的ボトルネックへの着目

このバーベル戦略は、中国経済が直面する二つの異なる「構造的ボトルネック」に同時に投資するという点で特徴的だ。

AI分野では、米国の輸出規制により最先端の半導体入手が困難になる中、中国は国産AIチップの「量的拡大」で対抗しようとしている。業界アナリストの見方では、個々のチップ性能でNVIDIA製に劣るとしても、圧倒的な数量を投入して演算能力(計演算能力)全体を確保する戦略が現実的な選択肢となっている。CITIC(中信)証券は、この国産ハードウェアの量的拡大が、クラウドサービスの単価と利用量を共に押し上げる「量価斉昇」につながると分析。国産の演算インフラやクラウドプラットフォームを手がける企業に大きな投資機会があると指摘する。

一方のエネルギー・化学分野では、グローバルな「供給支配力」が投資の根拠となる。レポートが具体的に挙げる銅張積層板(CCL)、ガラス繊維、光ファイバー、電子特殊ガス、積層セラミックコンデンサ(MLCC)のほか、リン化学製品、MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)などは、いずれも特定の企業や地域への生産集中度が高い。これらの分野で生産能力の淘汰が進み、需給が逼迫すれば、価格支配力を持つ企業の収益性は景気動向に左右されにくくなる。この二つの異なる構造に着目し、ポートフォリオを組むことが今回の提言の核心的な洞察と言える。

日本市場への影響

CITIC(中信)証券の投資戦略転換は、日本企業にとってサプライチェーンの再考を迫る。特に、中国が「供給制約」を重視し、化学セクターや新エネルギー分野での価格決定力を持つ企業への投資を強化する動きは、日本の素材メーカーに直接的な影響を与える。例えば、炭酸リチウムやレアアースのように中国が生産・精製能力の過半を占める品目では、価格高騰リスクだけでなく、調達安定性の確保が喫緊の課題となる。日本の自動車メーカーや電子部品メーカーは、中国依存度の高い素材の調達先を多角化するか、代替素材の開発を加速させる必要がある。

また、AI分野における中国の「量的拡大」戦略は、日本企業に新たな機会をもたらす。中国が国産AIチップの性能不足を「圧倒的な数量」で補う方針は、半導体製造装置や材料、あるいはAI関連のソフトウェア・サービスを提供する日本企業にとって、大規模な需要創出につながる可能性がある。特に、高性能な半導体製造装置を提供する東京エレクトロンや、検査装置分野で強みを持つアドバンテストなどは、中国のAIインフラ構築において不可欠な存在となるだろう。しかし、米国の輸出規制強化の動向を注視し、地政学リスクを考慮した事業戦略が求められる。