Alibabaグループ傘下の生鮮食品スーパー「盒馬(フーマー、Hema)」は、2024年の売上高が前年比で40%以上増加したと発表した。同社の厳筱磊(ヤン・シャオレイ)最高経営責任者(CEO)が明らかにしたもので、2025年に向けて「両輪駆動」戦略を推進し、さらなる成長を目指す。オンラインとオフラインを融合させたOMO(Online Merges with Offline)モデルを武器に、地方都市への展開を加速させる方針だ。

なぜ今、重要か

今回の発表は、Alibabaグループの事業再編が進む中で、フーマーの戦略的重要性が改めて示されたことを意味する。Alibabaは2023年、フーマーのスピンオフと香港証券取引所への上場計画を一時撤回しており、その後の事業の方向性が注目されていた。今回の力強い成長は、同事業の再評価につながる可能性がある。

中国の生鮮EC市場は、iiMedia Researchの報告によると2025年に1.2兆元(約25兆円)規模に達すると予測される巨大市場だ。JD.com(JD.com(京東))傘下の「7FRESH」やTencentテンセント)が出資する「永輝超市(Yonghui Superstores)」などとの競争が激化する中、フーマーは独自のOMOモデルと地方都市への浸透戦略で差別化を図る構えだ。

成長を支える「両輪駆動」戦略

フーマーが掲げる「両輪駆動」戦略は、二つの核心事業を成長の柱と位置づけるものだ。一つは、オンラインとオフラインを融合させた主力業態の「フーマーフレッシュ(Hema Fresh)」。もう一つは、地域コミュニティに特化した小型店舗「フーマーネイバーフッド(Hema Neighborhood)」である。

フーマーフレッシュは、生鮮品を中心とした豊富な品揃えと飲食スペースを併設した体験型店舗でありながら、オンライン注文の配送拠点としても機能する。一方、フーマーネイバーフッドは住宅地に近接した小型店舗で、オンライン注文の前線基地(フロントウェアハウス)としての役割を担い、ラストワンマイル配送の効率を高める。両事業が相互に補完し合うことで、市場全体のカバー率を高めていく狙いだ。

地方都市への展開加速と市場背景

フーマーは2025年の計画として、「フーマーフレッシュ」を新たに40都市へ進出させ、「フーマーネイバーフッド」を200店舗以上開設する目標を掲げている。この背景には、中国経済の構造変化がある。

近年、北京や上海などの1級都市が安定成長を続ける一方、3級・4級都市を中心とする「下沈市場」と呼ばれる地方都市圏で経済と消費の伸びが著しい。フーマーはこのトレンドを的確に捉え、未開拓エリアへの出店を加速することで、新たな成長エンジンを確保する。中国の調査会社QuestMobileによると、地方都市のモバイルインターネットユーザーは6億人を超え、オンライン消費の巨大な潜在市場となっている。

技術解説:OMOを支えるデータ駆動型サプライチェーン

フーマーの競争力の源泉は、テクノロジーを駆使したOMOモデルにある。特に以下の3点が中核をなす。

  1. データ駆動の需要を予測: アプリを通じた顧客の購入履歴、閲覧データ、地域特性などをAIが分析し、店舗ごとの品揃えや発注量を最適化する。これにより、生鮮食品で課題となる食品廃棄率を業界平均の5%以上から1.5%以下に抑制しているとされる。
  1. 店舗内自動物流システム: フーマーフレッシュの店舗では、天井に張り巡らされたコンベヤーベルトが特徴的だ。オンラインで注文が入ると、店員がピッキングした商品を専用バッグに入れ、このコンベヤーに乗せる。商品は自動でバックヤードの配送拠点へ運ばれ、梱包後、配送員に引き渡される。この仕組みが、店舗から半径3km圏内への「30分以内配送」を可能にしている。
  1. 垂直統合型サプライチェーン: 「盒馬村(フーマービレッジ)」と呼ばれる産地直送モデルを構築。全国の農家や生産者と直接契約し、中間流通を排除することで、高い鮮度と価格競争力を両立させている。ブロックチェーン技術を活用したトレーサビリティシステムも導入し、商品の生産から消費までの情報を可視化している。

日本への影響と今後の展望

盒馬(フーマー、Hema)の地方都市戦略は、日本の小売・食品関連企業にとって新たな機会とリスクを提示する。まず、盒馬鮮生が2025年に40都市へ進出、盒馬NBが200店舗以上開設する目標は、中国内陸部の消費市場の本格的な開花を意味する。これまで沿海部に集中していた日本企業の中国戦略は、今後は地方都市への展開を視野に入れる必要が出てくる。例えば、地方都市向けに特化した食品や日用品の需要が拡大する可能性があり、日本の地方産品や中小企業が直接参入する余地が生まれる。

一方で、盒馬の「両輪駆動」戦略は、日本のサプライチェーンに新たな競争圧力をかける。盒馬の売上高が前年比40%以上増加した事実は、同社が中国市場で急速にシェアを拡大していることを示す。これは、日本の食品メーカーや商社が中国市場で提携する際、従来の中国系大手流通だけでなく、盒馬のような新興勢力との協業を検討する必要があることを意味する。特に、盒馬NBのような地域密着型店舗は、日本のきめ細やかなサプライチェーン管理や品質管理のノウハウが活かせる領域だが、同時に日本の競合他社との差別化がより一層求められる。中国の消費市場が多層化・分散化する中で、日本企業は単に製品を輸出するだけでなく、中国の流通チャネルの多様性を理解し、適切なパートナーシップを構築することが急務となる。