AIデータセンターの電力はACグリッドからNVIDIA GPUまで8段階で電圧を変換して届く。なぜ高圧送電か、UPSの二重変換、12V/54Vへの整流、VRMが1V以下で数百アンペアを供給する仕組みまでを段ごとに解説。800V直流化とPUE、変圧器・磁性部品を担う日本企業の位置も読む。

AIデータセンターの電力は、高圧送電網からGPU内部の1ボルト以下まで、八つの段階で電圧を刻みながら届く。各段で変圧器やUPS(無停電電源装置)、サーバー電源が電圧を下げ、交流を直流に変え、瞬断やノイズを取り除く。エヌビディアの最新ラックは1台で100キロワットを超え、その電力を支えるのはイートン(ETN)やヴァーティブ(VRT)の機器と、TDK(6762)や富士電機(6504)が担う変圧・磁性の基盤だ。送電網からGPUまでの道のりを段ごとにたどると、データセンターが「電力を演算に変える精密機械」である理由が見えてくる。

【図表1】電力8段の電圧変換と各段の主な担い手

段階電圧・変換主な役割主要企業(米/日)
1 発電・送電数十万V級の高圧送電発電所から長距離を低損失で運ぶNextEra(NEE)、Constellation(CEG)/電源開発
2 変電所変圧13〜34.5kVへ降圧構内供給用の中電圧に整えるEaton(ETN)、ABB、GE Vernova(GEV)/三菱電機(6503)、日立(6501)
3 構内MV配電中電圧で分配開閉装置・環状給電で各建屋へEaton、Schneider($SBGSY)/明電舎(6508)
4 構内降圧480V/400Vへ降圧設備用低電圧をつくるEaton、Vertiv($VRT)/富士電機(6504)
5 UPS・安定化交流→直流→交流瞬断除去と清浄化、蓄電池待機Vertiv、Generac($GNRC)/富士電機、GSユアサ(6674)
6 PDU/ラック配電ラックへ分配計量しながらラックに供給Vertiv、Eaton/TDK(6762)
7 サーバーPSU交流→12V/54V直流サーバー用の規定直流に変換Delta・Lite-On(台湾, 非上場)/村田(6981)
8 GPU電力入力54V/12V→約1VVRMがGPU直下で大電流を供給NVIDIA(NVDA)、Supermicro(SMCI)/TDK、田村製作所(6768)

なぜ高圧で長距離を送るのか

電力を遠くへ運ぶとき、電圧を上げるのは送電損失を抑えるためだ。電線で失われる熱は電流の二乗と抵抗の積(I²R)に比例する。同じ電力なら電圧を上げるほど電流を小さくでき、損失は劇的に減る。このため送電網の基幹は数十万ボルト級で運用され、発電所(段階1)から長距離を走る。米国ではネクステラ・エナジー(NEE)やコンステレーション・エナジー(CEG)が原子力やガス火力の長期電源を握り、データセンター向けの電力契約を競う。

電力がデータセンターの敷地に近づくと、配電用変電所(段階2)で初めて電圧が落とされる。一般に13〜34.5キロボルトの中電圧で、ここから構内へ配る。降圧を担うのが電力変圧器で、鉄心に巻いた一次・二次コイルの巻数比で電圧を変える。電圧階級ごとに開閉装置(スイッチギア)、遮断器、保護リレーが組み合わさり、短絡や地絡を瞬時に切り離す。この層はイートン、ハベル(HUBB)、スイスのABB、GEバーノバ(GEV)が世界市場をけん引し、高圧変圧器では三菱電機や日立製作所(6501)が損失と信頼性で評価される。送電と変電は地味だが、ここでの損失と安定性が下流すべての前提になる。

構内で電圧を段階的に下げる

中電圧が構内に入ると、いきなりサーバー用の低電圧にはせず、段階を踏んで下げていく(段階3〜4)。中電圧配電では開閉装置とケーブル、そして環状給電(リング・メイン・ユニット)が使われる。給電路を輪のようにつなぎ、一方が故障しても逆回りで電力を回せる冗長構成だ。これにより一台の機器停止が全体の停電につながらない。

各建屋では構内変圧器(段階4)が中電圧を480ボルトや400ボルトの低電圧まで落とす。電圧を一気に下げない理由は二つある。高い電圧ほど絶縁距離と機器の耐圧コストがかさみ、扱える電流(短絡時の事故電流)も大きくなるため、各階級に合った機器で受け渡すほうが安全で効率的だからだ。変圧器には、空気で冷やし油火災の懸念がない乾式と、容量が大きく屋外向きの油入りがあり、設置環境で使い分ける。低圧の開閉装置やバスダクト(母線)はイートン、ヴァーティブ(VRT)、仏シュナイダーエレクトリック(SBGSY)が担い、国内では明電舎(6508)や富士電機の機器が静音性と高効率で北米のハイパースケーラーに採用される例も出ていると見られる。

UPSが作る「途切れない清浄な電力」

サーバーに渡す前に、電力は無停電電源装置(UPS、段階5)で整えられる。中核は二重変換と呼ぶ方式だ。入ってきた交流をいったん整流して直流の母線をつくり、そこに蓄電池をつないだうえで、再びインバーターで交流に戻す。負荷は常に作り直された電力を受けるため、系統側の電圧低下や高調波、周波数の揺れから切り離される。停電が起きても、直流母線には蓄電池が即座に電力を送るので途切れない。電源の切り替えはスタティック・トランスファー・スイッチがミリ秒単位で行う。

清浄化が要るのは、サーバー電源やGPUが電圧の乱れに弱いからだ。瞬間的な電圧降下やノイズは演算誤りや機器故障を招く。データセンターはこの層を冗長化し、必要台数に予備を一台加えるN+1や、系統を丸ごと二重化する2N構成で「ダウンタイムゼロ」を担保する。二重変換の効率は通常94〜97%程度で、わずかな損失と引き換えに安定を買う設計だ。UPSはヴァーティブ、イートン、シュナイダー、ABB、ジェネラック(GNRC)が競い、国内では富士電機の大容量UPSとGSユアサ(6674)のリチウムイオン蓄電が国内データセンターで先行採用されている。

交流を直流へ、GPU直前で1V以下に落とす

整えられた電力は、配電盤(PDU)やラック電源パネル(段階6)を経て各サーバーへ分配され、計量される。サーバーに入ると電源ユニット(PSU、段階7)が交流を直流に変える。まず力率改善(PFC)で電流の波形を整え、整流したうえで、12ボルトまたは54ボルトの直流をつくる。近年のラックが48〜54ボルトの母線を使うのは、同じ電力なら電圧が高いほど電流が小さく、ラック内の銅と発熱を減らせるからだ。サーバー電源は台湾のデルタ電子、ライトオン、エイブルが大半を占め、いずれも米国に上場していない。

最後の関門が、GPU直下の電圧調整モジュール(VRM、段階8)だ。VRMは54ボルトや12ボルトを、GPUの動作電圧であるおよそ0.7〜1ボルトまで落とす。このとき流れる電流は数百アンペアに達する。電圧が低く電流が大きいほど、わずかな配線インダクタンスでも電圧が落ち込むため、変換はGPUの直下に置き、複数相(マルチフェーズ)で分担する。GPUの電流が1マイクロ秒あたり千アンペアを超える速さで変動すると、VRMだけでは追いつかず、周囲に数千〜数万個並べたMLCC(積層セラミックコンデンサ)が電荷の貯水池として瞬時に補う。電源を載せるマザーボードはエヌビディア(NVDA)やスーパーマイクロ(SMCI)、デル(DELL)が手がけ、電源モジュールや磁性部品ではTDK、村田製作所(6981)が組み込まれる。

800V直流化が変換段を畳む

ここまでの八段は、交流と直流の変換を何度も繰り返す。変換のたびに数%の電力が熱として失われ、段を重ねるほど損失と銅の量が積み上がる。これを減らす次の設計が、800ボルト直流のネイティブ化だ。施設からラック、サーバーへ直流のまま高い電圧で配り、変換の回数を減らす。電圧を上げれば電流が下がるため、テキサス・インスツルメンツ(TXN)やSTマイクロエレクトロニクスの設計例では銅の使用量が約45%減り、変換効率は97.6%に達するとされる。

高電圧化で主役になるのが、固体変圧器(SST)と高周波の磁性部品である。固体変圧器は、重い50/60ヘルツの鉄心変圧器の代わりに、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)のパワー半導体と中周波の磁性部品を組み合わせ、小型で高効率の変換を行う。コア材と絶縁設計が性能を決めるこの領域で、TDKの磁性体、田村製作所(6768)や住友電気工業(5802)の高周波材料が世界最高水準にある。一方で、800ボルト化を含む電源アーキテクチャの設計主導権はTIやデルタが握りつつあり、本格採用は2026〜27年とみられる。電圧の設計図を誰が描くかが、この段の主導権を左右する。

冗長と効率を測る物差し

データセンターの良し悪しは、電力をどれだけ無駄なく演算に変えるかで測る。代表的な指標が電力使用効率(PUE)で、施設全体の消費電力をIT機器の消費電力で割った値だ。1.0に近いほど冷却や変換の無駄が少なく、最新の大規模施設は1.1前後、旧来型は1.5前後とされる(米アップタイム・インスティテュートの調査)。八段の各変換とUPSの損失、そして冷却が、この差を生む。

需要そのものも急拡大している。国際エネルギー機関(IEA)は2025年4月の報告で、データセンターの電力消費が2024年の約415テラワット時から2030年に約945テラワット時へ倍増すると予測した。エヌビディアのラック型システムは1台で100キロワットを超え、施設はキロワット級からマルチメガワット級へ拡張できるよう設計される。系統が逼迫する局面では、ブルーム・エナジー(BE)の燃料電池やマイクログリッド、蓄電が自家電源として補い、稼働率を支える。信頼性・効率・拡張性の三つを同時に満たして初めて、GPUは全速で動く。

日本企業が直面する選択

機会は二つある。

  • 第一は、段をまたいだ開示による再評価だ。三菱電機や富士電機が「データセンター向け重電」を、TDKや村田が「AIサーバー向け電源・部品」を分離して語れば、変圧器から磁性部品までの優位が初めて株価の物差しに乗る。
  • 第二は、終段での設計参入である。800ボルト対応の磁性部品と埋め込み部品を束ねたモジュール提案は、台湾勢が握るサーバー電源の牙城に切り込む経路になる。村田は部品を束ねたパワーモジュール事業を2026年に量産し、2027年度に売上500億円規模を目指すとされる。

リスクも見ておきたい。第一に、電源アーキテクチャとサーバー電源の設計主導権を米国・台湾が握る限り、日本は材料・部品の供給者にとどまりやすい。第二に、電力の逼迫そのものだ。東京・大阪では新規データセンターが電力制約で遅れる一方、北海道や九州で蓄電を組み合わせた地域電源の動きが出ているとの指摘もある。八段を「AIデータセンター」と一括りにせず、発電・変電・電源・部品という段の単位で技術と企業を見極めることが、この精密機械を理解する出発点になると、現場の電圧の数字は告げている。