韓国のヒョンデは5月11日、同社の高性能ブランド「N」の走行体験を再現する「ヒョンデNレーシングシミュレーター」を発表した。ソニーのPlayStation 5を中核に拠え、実車の純正シートなどを採用した本格仕様が特徴だ。2026年の愛知・名古屋アジア競技大会のeスポーツ種目「グランツーリスモ7」の韓国代表選考会で既に活用されており、ブランド体験のデジタル化を加速させる。

なぜ今、重要か

eスポーツ市場は世界的に急拡大しており、調査会社Newzooの報告によると2026年には市場規模が27億ドルに達すると予測されている。特にレースゲームは自動車との親和性が高く、若年層へのブランド訴求に大きな効果を持つ。自動車メーカーが単にゲーム内に車両を提供するだけでなく、公式のシミュレーターハードウェアまで開発・販売するのは、デジタル空間でのブランド体験を包括的に提供する新たな戦略だ。2026年アジア競技大会の正式種目として採用されたことも、この動きの重要性を裏付けている。

実車部品で無入感を追求した本格仕様

このシミュレーターは、豪Next Level Racing社のコックピット「F-GT Elite Lite」を基に開発された。最大の特徴は、ヒョンデの高性能セダン「アバンテN」(海外名エラントラN)に実際に搭載されている純正の軽量バケットシートを採用した点だ。これにより、実車と違和感のないドライビングポジションと高い無入感を実現する。

ステアリングとペダルには、ロジクール(Logitech)のプロ向けハイエンドモデル「G PRO Racing Wheel」と「PRO Racing Pedals」を統合。最大11Nmのトルクを発生するダイレクトドライブ方式により、路面からのフィードバックを極めて精密に再現する。

PS5 Pro搭載モデルも、次世代性能を先取り

製品は2モデル展開される。標準の「RACER」版は、ソニーのPlayStation 5(PS5)とLGエレクトロニクス製の65インチ有機EL(OLED)テレビを組み合わせる。一方、上位の「PRO」版は、ソニーが公式発表していない次世代機「PlayStation 5 Pro(PS5 Pro)」と、LG製の業務用有機ELモニター「OLED Pro」を搭載するとされている。

この情報が事実であれば、PS5 Proの強化されたグラフィックス性能を先行して体験できることになる。業界アナリストは、PS5 ProがGPU性能を現行機の約2倍に高め、より高解像度かつ高フレームレートでの描画が可能になると予測しており、シミュレーター体験を飛躍的に向上させる可能性があると指摘している。

技術解説

本シミュレーターの核となる技術は、ハードウェアとソフトウェアの高度な統合にある。

  • ダイレクトドライブ方式: ロジクールG PROが採用するダイレクトドライブは、モーターの回転を直接ステアリングシャフトに伝える方式だ。ギアやベルトを介する従来方式で発生していたバックラッシュ(遊び)や力の伝達ロスがなく、路面の微細な凹凸やタイヤのグリップ状況を遅延なくドライバーに伝える。これにより、プロのレーシングドライバーがトレーニングで使用するレベルの忠実なフィードバックを実現している。
  • 有機ELディスプレイ: LG製のOLEDディスプレイは、自発光素子によりピクセル単位で輝度を制御できる。これにより、完全にな黒を表現でき、コントラスト比が極めて高い。また、応答速度が液晶ディスプレイに比べて格段に速いため、高速で動くレースシーンでも残像感がなく、クリアな視界を確保できる。PRO版に採用される業務用モニターは、さらに色再現性や輝度均一性が高く、より正確な映像述べたが可能だ。
  • ビークルダイナミクス: ソフトウェアである「グランツーリスモ7」は、長年にわたり蓄積された車両物理シミュレーション技術が特徴だ。開発元のポリフォニー・デジタルは、自動車メーカー各社と協力し、実車のCADデータや走行データを基に、サスペンションの動きから空力特性までを緻密に再現している。このソフトウェアと高性能なハードウェアが組み合わさることで、バーチャル空間でのリアルな運転体験が完了する。

日本への影響と今後の展望

ヒョンデのeスポーツ参入は、日本企業にとって新たな競争と協業の機会をもたらす。まず、ソニーのPlayStation 5と将来的なPS5 Proの採用は、日本のゲームプラットフォームが自動車産業のデジタル戦略の核となり得ることを示唆する。特に、未発表のPS5 Proがシミュレーターに搭載されるという情報は、ソニーが特定のパートナーに先行情報や技術を提供している可能性を示唆し、日本のゲーム開発者や周辺機器メーカーが、自動車メーカーとの連携を強化する上で、早期からの情報共有と協業体制構築の重要性を浮き彫りにする。

次に、ヒョンデがロジクール(Logitech)の「G PRO Racing Wheel」や「PRO Racing Pedals」といったプロ向け機材を採用したことは、周辺機器市場における競争激化を意味する。日本の周辺機器メーカーは、単なるゲーマー向け製品だけでなく、自動車メーカーのブランド体験向上に貢献する高精度かつ実車に近いフィーリングを提供する製品開発に注力する必要がある。

最後に、2026年の愛知・名古屋アジア競技大会でのeスポーツ種目「グランツーリスモ7」の韓国代表選考会で活用される点は、eスポーツが単なる娯楽から、ブランドプロモーションや人材育成の場へと進化していることを示す。日本の自動車メーカーは、自社のブランドを冠したeスポーツイベントやシミュレーター開発を通じて、若年層へのブランド訴求を強化し、新たな顧客層の獲得を目指すべきである。eスポーツ市場が2026年には27億ドルに達すると予測される中、この分野への戦略的投資は不可欠となる。