中国の新興EV(電気自動車)メーカー「Li Auto(リ・オート)(Li Auto)」が、販売効率の低い店舗を閉鎖し、ディーラー網を再編する方針を明らかにした。背景には、最大手BYDなどが主導する価格競争の激化と、市場全体の成長鈍化がある。同社の戦略転換は、中国EV市場が規模の拡大から収益性を重視する新たな段階に入ったことを示している。
なぜ今、重要か
Li Auto(リ・オート)はNIO(NIO(ニオ)汽車)、XPeng(XPeng(シャオペン)汽車)と並ぶ中国EV「新御三家」の一角であり、2023年には新興勢力として初めて年間販売台数37.6万台を達成し、黒字化も果たした有力企業だ。しかし、2024年に入り市場環境は一変。最大手BYDが主力モデルを最大20%値下げする「電比油低(EVはガソリン車より安い)」と銘打ったキャンペーンを開始し、市場全体の価格競争が激化している。
この影響を受け、Li Auto(リ・オート)の株価は2024年3月に発表した初の純EV「MEGA」の販売不振や既存モデルの値下げもあり、香港市場で高値から一時50%近く下落。市場は同社の成長性と収益性への懸念を強めており、今回の店舗網再編はコスト構造を抜本的に見直し、効率化を図るための喫緊の課題となっている。
Li Auto(リ・オート)の戦略転換、その背景
Li Auto(リ・オート)はこれまで、都市部の大型ショッピングモールを中心に直営店を急拡大する戦略を推進してきた。これによりブランド認知度を高め、2023年末時点で全国に467店舗を展開するまでに至った。この積極的な出店戦略が、同社の急成長を支える一因であったことは間違いない。
しかし、急速な拡大は販売効率のばらつきという副作用を生んだ。中国の経済メディア「36Kr」が報じたところによると、一部の店舗では月間販売台数が10台に満たないケースもあったという。今回の再編では、こうした低効率店舗を閉鎖・統合し、一部をアフターサービス拠点へ転換する。一方で、販売が好調な主に都市では、より大規模な旗艦店への投資を集中させる方針だ。これは、単なる規模の追求から、販売の「質」と収益性を重視する戦略への明確な転換を意味する。
熾烈化する中国EV市場の競争環境
現在の中国EV市場は「消耗戦」と呼ばれる過当競争の様相を呈している。中国汽車工業協会によると、2023年の新エネルギー車販売台数は949.5万台に達したが、100社以上のメーカーがひしめき合う飽和市場となりつつある。補助金が打ち切られ、各社は自力での生き残りをかけた消耗戦に突入した。
競合のNIOは大規模な人員削減に踏み切り、バッテリー交換ステーション事業の分社化を模索。XPengはフォルクスワーゲンとの提携で活路を見出そうとしている。さらに、通信機器大手のファーウェイ(ファーウェイ)が支援するAITO(問界、HUAWEI×SERES)(AITO(問界))や、スマートフォン大手のシャオミ(シャオミ)も高性能EVで市場に参入し、競争は異業種を巻き込みさらに激化している。Li Auto(リ・オート)の今回の動きは、こうした厳しい市場環境を生き抜くための防衛的、かつ必然的な一手とみることができる。
技術解説
Li Auto(リ・オート)の成功を支えてきた中核技術が、レンジエクステンダー型EV(EREV)だ。これは小型のガソリンエンジンを発電専用に搭載し、バッテリーを充電しながら走行する仕組みである。駆動は常にモーターで行うためEVの滑らかな走行感を維持しつつ、充電インフラが未整備な地方でも航続距離の不安なく走行できる。この「電欠(バッテリー切れ)」の不安を解消した点が、特にファミリー層から高い支持を得た。
- 電池戦略: 同社は主にCATL(寧徳時代)製の高エネルギー密度を持つNMC(三元系リチウムイオン)電池を搭載してきた。しかし、コスト削減の圧力から、今後は安全で安価なLFP(リン酸鉄リチウムイオン)電池の採用比率を高める見込みだ。LFP電池はサイクル寿命が6,000回以上と長く、コスト競争力に優れる。
- 自動運転技術: 「AD Max」と「AD Pro」の2つのシステムを展開。上位のAD Maxは、Hesai Technology(禾賽科学技術)製のLiDARを1基、NVIDIAの高性能チップ「Orin-X」を2基搭載し、複雑な交通環境下での高度な運転支援を実現する。これは、LiDARに依存せずカメラ中心のシステムを構築するテスラとは異なるアプローチであり、中国の複雑な道路事情に対応するための選択といえる。
日本への影響と示唆
中国高速鉄道のCO2濃度2000ppm超え問題は、日本企業にとって二つの具体的な影響をもたらす。一つは、中国市場における換気システムや空気清浄技術への需要喚起である。中国国鉄グループ「12306」が「空調システムが外気を取り入れ換気を行っている」と説明する一方で、乗客の懸念が払拭されていない現状は、より高性能な車内環境改善ソリューションを求める動きに繋がる。日本の鉄道車両メーカーや空調機器メーカーは、このニーズを捉え、技術提供や共同開発の機会を探るべきだ。
もう一つは、Li Auto(リ・オート)の店舗網再編に見られるEV市場の競争激化が、日本の自動車部品メーカーに与える影響だ。Li Autoが販売効率の低い店舗を閉鎖する背景には、EV市場の急速な変化と販売戦略の転換がある。これは、中国EVメーカーがコスト効率を追求し、サプライチェーンの再評価を進める可能性を示唆する。日本の部品メーカーは、単なる部品供給にとどまらず、中国EVメーカーのコスト削減や効率化に貢献できる技術やサービスを提案することで、新たな取引機会を創出できる。特に、高効率なバッテリー冷却システムや軽量化素材など、EVの性能向上とコスト削減に直結する技術が求められるだろう。
出典・参考
- [36Kr] (2024-05-20) "Li Auto(リ・オート)動刀、優化低効門店" ― (URLは非公開)
- [中国汽車工業協会] (2024-01-11) "2023年汽車工業産銷状況" ― http://www.caam.org.cn/chn/4/cate_31/con_5235703.html
- [Reuters] (2024-03-21) "China's Li Auto cuts delivery outlook, shares slump on weak demand" ― https://www.reuters.com/business/autos-transportation/chinas-li-auto-cuts-q1-delivery-outlook-2024-03-21/
- [Li Auto Inc. IR] (2024 Q1) "Li Auto Inc. Unaudited First Quarter 2024 Financial Results" ― https://ir.lixiang.com/news-releases/news-release-details/li-auto-inc-unaudited-first-quarter-2024-financial-results