中国の電子機器受託製造サービス(EMS)大手、立訊精密(Luxshare Precision)の株価が4月初旬から55%以上も急騰し、5月11日には時価総額が過去最高の5542億元(約11.6兆円)に達した。これにより、同社を率いる王来春(ワン・ライチュン)会長の保有株式(18.75%)の資産価値は1000億元(約2.1兆円)を突破。一代で大企業を築き上げた女性ビリオネアがまた一人誕生した。
フォックスコンの「最優秀の弟子」
王来春氏の経歴は、しばしば「出稼ぎ女性工場作業員のサクセスストーリー」として語られる。1988年、改革開放に沸く深圳で、21歳の王氏は台湾のフォックスコン精密工業(フォックスコン)が中国本土に設立した最初の工場で、150人の従業員の一人となった。創業者の郭台銘(テリー・ゴウ)氏の下、過酷な労働環境で知られた工場で多くの工場作業員が辞めていく中、彼女は10年間働き続け、本土採用の従業員としては最高位の女性管理職にまで上り詰めた。この間、彼女は貪欲に電子部品業界のノウハウを吸収し、郭氏の経営哲学を徹底的に学んだ。後に郭氏は王氏を「フォックスコンが生んだ最も成功した起業家の一人だ」と評している。
「脱・フォックスコン」とAppleへの道
1999年、王氏はフォックスコンを退社し、兄と共に香港の商社を買収して独立。当初は古巣であるフォックスコンの下請けに徹し、低利益率や高難度の案件を確実にこなすことで信頼を築いた。2010年に立訊精密が上場を果たすまで、売上の半分をフォックスコンが占めていた。しかし、上場で得た潤沢な資金を元に、王氏は大胆な転換を図る。2011年、ティム・クック氏がAppleのCEOに就任し、サプライチェーンの多様化を進める好機を捉えた王氏は、「資本で技術を買う」戦略を掲げ、積極的なM&Aを開始。コネクタメーカーの昆山聯滔電子などを買収することで技術力を高め、Appleのサプライチェーンへの参入に成功。これが「脱・フォックスコン依存」の決定打となり、同社を世界的な部品メーカーへと飛躍させる転機となった。
M&Aで拓く自動車分野への挑戦
立訊精密の成長戦略は今も続いている。最近の株価上昇の直接的なきっかけは、5月10日に発表された自動車部品メーカー・京西智行集団の買収計画だ。これにより、同社は間接的に京西国際の株式約59.5%を取得し、最終的な支配株主となる見込みだ。これは2年前のドイツのワイヤーハーネス大手レオニの買収に続く、自動車分野での大規模な資本投入となる。スマートフォンやコンシューマーエレクトロニクスで築いた精密製造技術を武器に、電気自動車(EV)関連市場を次の大きな成長の柱と位置づけていることが鮮明になった。王来春氏の挑戦は、新たなステージへと向かっている。