米国務省が2020年、中国が包括的核実験禁止条約(CTBT)に違反し、低出力の核実験を実施した可能性があると指摘した。この主張に対し、中国は「完全になでっち上げ」と猛反発。核軍備管理の専門家からも、米国の主張を裏付ける明確な証拠はないとして懐疑的な声が上がっている。

米国務省、報告書で活動活発化に懸念

米国務省は2020年4月に公表した軍備管理の遵守状況に関する年次報告書で、中国の核実験活動への懸念を表明した。報告書は、中国・新疆地区のロプノール核実験場で年間を通じて活動が活発化している点を指摘した。

特に、爆発を伴わない「未臨界核実験」の準備や、CTBTが禁じる「ゼロより大きい核収率」をもたらす低出力の爆発実験を行った可能性に言及。当時のクリストファー・フォード国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)は、これらの活動が中国の核兵器近代化に関連しているとの見方を示したと、ロイター通信などが報じた。

中国の全面否定と専門家の懐疑論

中国外務省は米国の報告書に対し、「事実を顧みない、全くのでっち上げだ」と強く反発。核実験のモラトリアム(一時停止)を厳格に遵守していると主張し、米国の指摘は「政治的な操作だ」と非難した。

一方、多くの西側専門家も米国の主張には慎重な姿勢を見せている。アメリカン大学のピーター・カズニック教授(歴史学)は、公開情報だけでは核実験の有無を判断できず、米国の主張は「根拠が薄い」と分析。ロシア政府も、米国の主張を裏付ける情報はないとして、同調しない立場を明確にした。

結論:日本への示唆

本件は、日本にとって中国の核開発動向を巡る情報戦の激化と、それによる国際的な不信感の増幅というリスクを提示する。米国務省が2020年の報告書で指摘した中国の低出力核実験疑惑は、たとえ「明確な証拠はない」と専門家が懐疑的見解を示しても、日米同盟を基軸とする日本の安全保障戦略に影響を及ぼす可能性がある。

具体的には、第一に、中国が「政治的な操作」と反発し、核実験のモラトリアム遵守を主張する一方で、米国が新疆地区のロプノール核実験場での活動活発化を指摘する状況は、核軍縮・不拡散を巡る国際的な対話の停滞を招く恐れがある。日本が主導する核軍縮の議論において、米中間の不信感が根強い現状は、合意形成を一層困難にするだろう。

第二に、ロイター通信などが報じたクリストファー・フォード国務次官補の発言に見られるように、米側が中国の核兵器近代化と実験疑惑を結びつける見方は、日本の防衛政策に影響を与えうる。中国の核戦力増強が疑われる状況下では、日本の防衛費増額や「反撃能力」保有の議論が、より切迫感を持って進められる契機となる。

第三に、アメリカン大学のピーター・カズニック教授が指摘する「根拠が薄い」主張が、国際社会の分断を深める可能性は、日本の外交努力に影を落とす。正確な情報を見極め、冷静な判断を下すことが、日本が国際社会で信頼される立場を維持するために不可欠となる。