中国の電子商取引(EC)大手、Pinduoduo(拼多多)(Pinduoduo)が、これまでECの恩恵が及びにくかった農村部を対象に「無料配送」サービスを本格化させている。物流網の末端、いわゆる「ラストワンマイル」にかかる追加費用を同社が負担することで、約5億人規模の巨大な潜在市場の開拓を狙う。この動きは、Alibaba集団(Alibaba Group)やJD.com(京東)集団(JD.com)との競争を新たな段階に引き上げると同時にに、中国政府が推進する「双循環」戦略の毛細血管を活性化させる可能性を秘めている。

「ラストワンマイル」費用を負担、農村消費を変える新戦略

「以前は考えられなかった。雲南省の果物がこんなに安く、便利に山の奥まで届くなんて」。中国経済網の報道によると、陝西省の山間部に住むある住民は、Pinduoduo(拼多多)で注文した商品がわずか数日で追加料金なく届いたことに驚きを隠さない。この変化の背景にあるのが、Pinduoduo(拼多多)が2025年第4四半期から試験的に開始した「農村への無料配送」サービスだ。

仕組みは、ECで購入された商品が県の集配センターに到着した後、そこから各村の集荷拠点までの「二次中継」にかかる追加配送料をPinduoduo(拼多多)が肩代わりするというものだ。これにより利用者は、これまで配送対象外であったり追加料金が必要だったりした地域でも、追加負担なしで荷物を受け取れるようになった。

このサービスは個人の消費だけでなく、村の小売店の仕入れチャネルとしても機能し始めている。安徽省で小さな商店を営む店主は、以前は町の市場まで出向いて仕入れていた菓子や調味料、衣料品などをオンラインで調達するようになった。春節(旧正月)前には1日に80個もの荷物が届いたといい、ビジネスのあり方そのものを変えつつある。Pinduoduo(拼多多)の担当者は「工業品の農村への浸透と、農産物の都市への出荷という双方向の循環に貢献したい」と述べており、国家戦略との連携を強く意識していることがうかがえる。

EC大手3社が競う「下沈市場」、消耗戦は最終局面に

Pinduoduo(拼多多)の今回の動きは、中国EC業界の長年にわたる競争の延長線上にある。特に、地方都市や農村部を指す「下沈市場」の攻略は、EC大手3社の最重要課題であり続けてきた。国家統計局のデータによれば、中国の農村部の常住人口は約5億人(2022年末時点)に上り、この巨大な未開拓市場をいかに取り込むかが今後の成長を左右する。

2015年に創業したPinduoduo(拼多多)は、友人同士で共同購入することで価格が下がる「社交EC(電子商取引)(ソーシャルEC)」という独自モデルと徹底した低価格戦略でこの市場を席巻し、急成長を遂げた。この成功を受け、先行するAlibabaは低価格帯に特化した「Taobao(淘宝)特価版(Taobao Special Offer Edition、現・淘特)」を、JD.comは「京喜(Jingxi)」を立ち上げるなど、追随する動きを見せてきた。

しかし、広大で人口密度が低い農村部への物流網構築は、コスト面で常に大きな課題だった。Alibabaは物流子会社の菜鳥網絡(Cainiao Network)を通じてプラットフォーム化を進めるがラストワンマイルの効率化に悩み、JD.comは強力な自社物流網を誇るものの、その強みは人口密集地の都市部でこそ発揮される。こうした中、これまで資産を持たないアセットライト経営を特徴としてきたPinduoduo(拼多多)が、物流コストを直接負担するという「重い」戦略に踏み切ったことは、価格競争、品ぞろえ競争に続き、物流サービスをめぐる競争が最終局面に突入したことを意味する。

物流網が握るデータ、国家戦略と結びつくプラットフォーム

Pinduoduo(拼多多)の戦略は、単なる物流サービスの改善に留まらない。これは、中国政府が掲げる「双循環」戦略、すなわち国内の経済循環を主体とする新たな発展モデルを、末端の消費レベルで具現化する試みと分析できる。工業製品がスムーズに農村に届き、逆に農村の特産品が効率的に都市に出荷される。この双方向の流れは、都市と農村の経済格差を是正し、内需全体の底上げに繋がる。Pinduoduo(拼多多)が「工業品下郷、農産品進城」というスローガンを掲げるのは、自社のビジネスが国家戦略と軌を一にしていることを示す狙いがある。

さらに構造的に見れば、これは壮大なデータ収集戦略の一環であると推察される。これまでEC事業者にとってブラックボックスだった農村部の消費動向、すなわち「誰が、何を、いつ、どれだけ欲しているか」という詳細なデータを、配送網を通じて直接把握することが可能になる。業界観測筋の見方では、このデータを活用することで、より精度の高い需要予測や、農村市場向けのプライベートブランド(PB)商品の開発、さらには零細農家向けの金融サービスなど、新たなビジネスへの展開が視野に入っているとみられる。物流コストという目先の費用を負担する代わりに、将来の市場支配力とデータという無形資産を手に入れる。これは、かつて配車アプリやフードデリバリー業界で見られた、補助金によって競合を淘汰し市場を寡占する戦略に類似しており、消耗戦を覚悟の上で仕掛けた「先行投資」である可能性が指摘される。

日本への影響と示唆

Pinduoduo(拼多多)の農村への「無料配送」サービスは、日本企業にとって大きな影響を及ぼす。中国の電子商取引(EC)大手が農村部の約5億人規模の巨大な潜在市場を狙っていることは、価格破壊の波が日本企業にも波及する可能性があることを示唆している。特に、物流コストの負担をPinduoduo(拼多多)が肩代わりすることで、AlibabaやJD.comに対抗する姿勢は、日本企業が中国市場で競争する上で大きな課題となる。

Pinduoduo(拼多多)のこの動きは、中国政府が推進する「双循環」戦略の毛細血管を活性化させる可能性を秘めている。日本企業は、Pinduoduo(拼多多)の農村への進出がもたらす機会とリスクを冷静に分析する必要がある。例えば、Pinduoduo(拼多多)の無料配送サービスは、日本企業の物流コストを削減する機会を提供するかもしれない。一方で、Pinduoduo(拼多多)の低価格戦略は、日本企業の価格競争力を低下させる可能性もある。

また、Pinduoduo(拼多多)の成功は、AlibabaやJD.comが追随する動きを見せる可能性がある。例えば、Alibabaは低価格帯に特化した「Taobao特価版」を立ち上げ、JD.comは「京喜」を立ち上げるなど、追随する動きを見せてきた。これは、日本企業が中国市場で競争する上で、価格戦略や物流戦略を再考する必要があることを示唆している。さらに、Pinduoduo(拼多多)の農村への進出は、日本企業が中国の農村部市場に進出する機会を提供するかもしれない。