中国の半導体・新素材メーカーである東陽光(Hec Technology)で、創業者一族による世代交代が行われた。共同創業者の郭梅蘭氏が保有する全株式を息子の張寓帥氏(38)に無償で譲渡し、張氏が唯一の実質的な経営権を握った。新体制の下、同社は研究開発を強化し、高付加価値材料分野での成長を目指す。
株式無償譲渡で経営権を一本化
東陽光は先ごろ、共同創業者である郭梅蘭氏が、高齢を理由に保有する全株式を息子の張寓帥氏へ無償で譲渡したと発表した。この株式譲渡により、張氏は間接的に同社の株式 38.70% を保有することになり、唯一の実質的な支配権を持つ経営者となった。
今回の事業承継は、中国の民間企業における円滑な世代交代の事例として注目される。経営権の移譲後、郭氏は経営の一線から退く。
新トップ張寓帥氏の経歴と実績
新しく経営の舵取りを担う張寓帥氏は38歳。若くして海外の大学に留学し、金融と工学を専攻した。帰国後は東陽光に入社し、電子材料工場の現場職からキャリアをスタートさせた。その後、新エネルギー事業部などで経験を積み、数々の重要な技術革新や投資判断に深く関与してきた。
特に2018年以降は、新エネルギー事業部の戦略転換を主導。同社をリチウムイオン電池用の電極箔やPVDF(ポリフッ化ビニリデン)接着剤といった、より付加価値の高い材料分野へ進出させる上で中心的な役割を果たした。
研究開発主導の成長戦略
張氏が率いる新体制では、技術革新を成長の柱に拠える方針だ。東陽光は現在、研究開発投資を拡大し、全従業員に占める研究開発人材の比率を高めている。さらに、社内に初めて「チーフサイエンティスト」の役職を新設し、基礎研究から製品開発までを統括する体制を構築した。
張氏のリーダーシップと企業の革新能力が、今後の東陽光の成長を左右することになる。同社は今後、技術革新とグローバル化をさらに推進していくとみられる。
日本企業への示唆
東陽光の世代交代は、日本企業にとって中国サプライチェーンにおける新たなリスクと機会を提示する。まず、新トップの張寓帥氏がリチウムイオン電池材料やPVDF(ポリフッ化ビニリデン)接着剤といった高付加価値分野への進出を主導してきた経緯は、日本の化学・素材メーカーとの競合激化を意味する。特に、日本の得意とする精密化学分野において、東陽光が研究開発投資を拡大し「チーフサイエンティスト」職を新設するなど、技術力向上への意欲を明確にしている点は看過できない。
一方で、東陽光が半導体材料も手掛けるHec Technologyであることから、日本の半導体製造装置・材料メーカーにとっては新たなビジネスチャンスも生じる可能性がある。張氏が間接的に38.70%の株式を保有し、経営権を一本化したことで、意思決定の迅速化が期待できるため、共同研究開発や技術提携の提案が以前よりも通りやすくなるかもしれない。
しかし、中国企業の技術力向上は、日本企業のサプライチェーン戦略に再考を迫る。東陽光が強みを持つリチウムイオン電池関連材料の国産化が進めば、日本の電池メーカーや自動車メーカーは、調達先の多様化や代替材料の検討を加速させる必要に迫られる。これは、単なるコスト競争だけでなく、技術優位性の維持という観点からも、日本の産業界に戦略的な対応を求めるものだ。