中国の天孚通信(TFC)が、AIデータセンター向け光通信部品で急成長している。かつて日本企業が市場を独占していた精密部品の国産化を起点に、世界有数のサプライヤーへと飛躍を遂げた企業だ。創業者の鄒支農氏の挑戦と、同社の成長戦略を追う。

日本の独占を打ち破った「セラミックフェルール」

創業者である鄒支農氏は江西省の農村出身で、吉林工業大学を卒業後、1995年に起業。妻の欧洋氏と共に総合配線工事を手がける中で、光ファイバー接続の基幹部品である「セラミックフェルール」の品質が重要であることに着目した。しかし、当時この部品は日本企業が市場をほぼ独占しており、非常にに高価だった。

この状況を打破すべく、鄒氏は2005年に朱国棟氏、欧洋氏と共に蘇州工業園区で天孚精密セラミック(現在の天孚通信)を設立。米粒ほどの大きさのセラミックフェルールの開発に着手した。ナノセラミックの焼結技術など数々の課題を克服し、製造プロセスの改良によってコストダウンを実現。半年以上を費やして開発を成功させ、高価な日本製からの置き換えを徐々に進めていった。

AIブームを追い風に世界市場へ

セラミックフェルールの国産化で基盤を築いた天孚通信は、その後、光通信部品の総合メーカーへと事業を拡大。特に近年のAIブームが同社の成長を強力に後押ししている。AIデータセンターでは膨大なデータを高速処理するため、高性能な光通信部品が不可欠であり、同社の製品需要が急増した。

同社は2015年、中国の光通信部品業界で初となる深圳証券取引所の創業板(チャイネクスト)への上場を果たした。現在では、20以上の国と地域に製品を供給し、年間数億個の光通信部品を世界市場に提供するグローバル企業へと成長した。中国メディアによると、同社はAIデータセンター向け製品で確固たる地位を築いている。

日本にとっての意味

天孚通信の急成長は、日本企業にとって複数の具体的な影響と示唆をもたらす。第一に、かつて日本企業が市場をほぼ独占していたセラミックフェルールにおいて、中国企業が技術的障壁を克服し、コスト競争力を持つ製品を開発した事実は、日本の精密部品産業における優位性が盤石ではないことを示す。特に、同社が半年以上を費やして開発に成功したように、中国企業が特定分野に資源を集中投下し、短期間で技術をキャッチアップする能力は過小評価できない。

第二に、天孚通信がAIデータセンター向け光通信部品で確固たる地位を築き、20以上の国と地域に製品を供給するグローバル企業へと成長したことは、日本の光通信部品メーカーが新たな市場機会を捉えきれていない可能性を示唆する。AIブームによる需要増は世界的な傾向であり、この分野での中国企業の台頭は、日本企業が既存の顧客基盤や技術に安住せず、先端技術トレンドへの対応を加速する必要があることを突きつける。

第三に、2015年の深圳証券取引所創業板(チャイネクスト)への上場は、同社が潤沢な資金調達能力を有し、研究開発や設備投資を積極的に行える環境にあることを意味する。これは、日本の同業他社が技術開発競争において資金面で不利になる可能性をはらむ。日本企業は、技術力だけでなく、市場の変化を先読みし、AIのような成長分野に迅速に投資する戦略が求められる。