米国の制裁下、中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)が開発した7nmプロセス半導体の実態は、旧世代の深紫外線(DUV)露光装置を駆使した多重露光技術の応用である。このチップは華為技術(ファーウェイ)の新型スマートフォンに搭載され、米国の技術封鎖網に風穴を開けたかに見える。本稿では、チップの技術水準と生産性の課題を分析し、米国の輸出規制が中国の半導体国産化に与えた真の影響と、今後の技術覇権競争の行方を展望する。この動きは、世界の半導体供給網に深く組み込まれる日本の装置・素材産業に対し、新たな事業戦略の策定を迫るものだ。
SMIC製7nmチップ、技術的達成の内実
2023年8月、ファーウェイが発売したスマートフォン「Mate 60 Pro」は、SMICが製造した7nmプロセス採用とみられるSoC(System-on-a-Chip)「Kirin 9000S」を搭載していた。カナダの調査会社TechInsightsが同年9月に公表した分解報告書は、このチップがSMICの第2世代7nmプロセス(N+2)で製造されたと結論付けている。これは、米国の輸出規制が本格化した2020年以降、中国企業が到達した最も微細な回路線幅であり、技術的達成として注目される。
しかし、その製造手法は、業界の主流とは一線を画す。最先端プロセスで標準的に用いられる極端紫外線(EUV)露光装置ではなく、一世代前のArF液浸DUV露光装置を利用した多重露光(マルチパターニング)技術に依存している。物理的原理として、EUVが波長13.5nmの光で微細な回路を一括描画するのに対し、波長193nmのArF光を用いるDUVでは、同じ解像度を得るために回路パターンを複数回に分けてウエハー上に焼き付ける必要がある。具体的には、リソグラフィとエッチングの工程を3回、4回と繰り返すことで、装置の物理的限界を超える微細化を実現する。この手法は、台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子が7nm世代の一部で採用後、生産性の問題からEUVへ移行した経緯がある。SMICの達成は、EUV装置へのアクセスを絶たれた環境下で、既存技術を極限まで応用した結果と見られる。ただし、その代償として工程数は飛躍的に増大し、ウエハー1枚当たりの処理時間も長くなる。業界筋の試算では、EUVを用いる場合に比べ、製造コストは少なくとも40%以上割高になるとされる。
なぜ米国の規制網を突破できたのか?
SMICが7nmプロセスを実現できた背景には、米国の輸出規制に存在した時間的・技術的な「隙間」がある。米商務省産業安全保障局(BIS)がファーウェイをエンティティ・リストに追加し、米国技術を用いた半導体の供給を事実上禁止したのは2020年だが、先端製造装置そのものの対中輸出規制が厳格化されたのは2022年10月のことである。特に、先端半導体製造に不可欠なオランダASML製のEUV露光装置は早くから輸出が差し止められていたものの、汎用性の高いDUV露光装置については、一部高性能機種を除き取引が継続されていた。
SMICは、規制が全面的に強化される前の2020年から2022年にかけて、ASML製のArF液浸DUV露光装置「NXT:2000i」などを相当数確保したと見られている。ASMLが2023年第3四半期の決算で、中国向け売上高が全体の46%を占めたと公表したことは、規制強化前の駆け込み需要がいかに大きかったかを物語る。日本政府とオランダ政府が米国の要請に応じ、先端DUV露光装置を含む23品目の輸出管理を強化する措置を導入したのは2023年7月以降であり、それまでは法的に輸出が可能だった。つまり、SMICの7nm開発は、規制強化前に調達した既存の装置群と、蓄積した技術知見を最大限に活用して行われたものだ。中国国内の装置メーカー、例えば上海微電子装備(SMEE)が開発中のDUV露光装置は、現時点で90nmプロセス対応に留まり、7nm世代の量産に寄与できる水準にはない。今回の達成は、純国産技術の勝利というより、グローバルな供給網から切り離される直前の「最後の窓」を活かした成果と分析するのが妥当である。
国産化路線の生産性と経済合理性
「製造できる」ことと、「事業として持続可能である」ことは同義ではない。SMICの7nmプロセスは、生産性と経済合理性の面で深刻な課題を抱える。TechInsightsは「Kirin 9000S」の分析に基づき、その製造歩留まり(良品率)を50%未満と推定している。これは、TSMCやサムスン電子が同世代のプロセスで達成したとされる90%以上の歩留まりと比較して著しく低い。歩留まりの低さは、ウエハー1枚から取れる良品チップ数を減少させ、製造原価を直接的に押し上げる要因となる。
多重露光に起因するコスト増も深刻だ。リソグラフィ工程の繰り返しは、高価なフォトレジストの使用量を増やし、装置の稼働時間を延ばし、電力消費を増大させる。米国の調査会社International Business Strategies(IBS)が2020年に発表した試算によれば、5nmプロセスをDUVの4回露光で製造した場合のコストは、EUVの単一露光に比べてウエハー1枚あたり2倍近くに達する可能性がある。この構造的な非効率性は、SMICの収益性を圧迫する。同社の2023年12月期の売上高は前年比13%減の63億ドル、純利益は50%減の9億ドルに落ち込んだ。国家からの補助金なしには、先端分野の研究開発と設備投資を継続するのは困難な状況と見られる。中国政府は国家集積回路産業投資基金(通称「大基金」)などを通じて、2014年以降、半導体産業に累計1兆元(約21兆円)以上を投じてきた。SMICの7nm達成は、経済合理性よりも国家安全保障を優先する、巨額の国家資本投下の結果であり、自由競争市場における技術革新とは性格を異にする。
米国の追加規制と中国の対抗策
ファーウェイ「Mate 60 Pro」の登場は、米国の対中技術封鎖政策の効果を問い直す契機となった。これを受け、米商務省は2023年10月、既存の輸出規制を更新・強化する追加措置を発表した。新たな規制は、DUV露光装置の性能基準を厳格化し、事実上ASML製の中上位機種の対中輸出を全面的に禁止する内容だ。具体的には、装置の解像度や重ね合わせ精度に関する閾値を引き下げ、規制の抜け穴と指摘されていた領域を塞いだ。これにより、SMICが今後、既存装置の更新や増設によって7nm以降のプロセス開発を加速させる道は、さらに険しくなった。
一方、中国は国内の供給網強化で対抗する姿勢を鮮明にしている。半導体製造装置の内製化が急務となり、前述のSMEEに加え、エッチング装置の北方華創科技集団(NAURA)や洗浄装置の盛美上海半導体設備(ACM Research)などが国家的な支援を受けて開発を急いでいる。しかし、これらの企業がASMLや東京エレクトロン、米ラムリサーチといった世界大手と伍する性能の装置を供給するには、少なくとも5年から10年の時間が必要との見方が業界では支配的だ。素材分野でも、EUV用フォトレジストや高純度フッ化水素など、日本企業が世界市場で高い占有率を持つ重要部材の国産化が課題となる。中国は2023年8月、半導体材料となるガリウムとゲルマニウムの輸出を規制し、供給網上の自国の重要性を誇示したが、これは先端半導体の製造能力そのものを左右するものではなく、交渉上の牽制と見られている。
日本企業が直面する二元市場の選択
米中間の技術覇権争いは、日本の半導体関連産業に構造的な変化を強いている。東京エレクトロン、SCREENホールディングス、アドバンテストといった日本の製造装置メーカーは、世界売上高に占める中国市場の比率が30〜40%に達する企業も多く、米国の規制強化は直接的な事業リスクとなる。各社は米国の輸出管理規則(EAR)を遵守し、先端技術の中国への流出を防ぐ一方、規制対象外の旧世代装置や汎用品の巨大な需要にどう対応するかという難しい舵取りを迫られている。2023年以降、中国では成熟・旧世代プロセス(28nm以上)の半導体工場建設が活発化しており、この分野での装置需要は旺盛だ。日本の装置メーカーにとって、中国は依然として最大の顧客であり続ける。
素材分野でも同様の構図が浮かび上がる。信越化学工業やSUMCOが世界市場の約6割を占めるシリコンウエハー、JSRや東京応化工業がEUV用で市場を席巻するフォトレジストなど、日本の素材メーカーは半導体供給網の基盤を支える。米国の規制はこれらの素材の直接的な輸出を禁じるものではないが、納入先である半導体メーカーが規制対象となれば、間接的に影響は避けられない。長期的には、米国を中心とする先端技術ブロックと、中国が主導する独自の国産技術ブロックという「二元市場」が形成される可能性が指摘される。この中で日本企業は、一方の市場から締め出されるリスクを回避しつつ、両市場で事業機会を追求する高度な戦略が求められる。特に、日本が強みを持つ製造装置や高純度素材の分野で技術的優位性を維持・強化し、国際的な共同開発体制を主導していくことが、経済安全保障上の要諦となるだろう。