中国の半導体国産化は、中芯国際集成電路製造(SMIC)が7ナノメートル(nm)品の生産に至ったものの、旧式の露光装置と海外製材料への依存構造から抜け出せず、量産規模と収益性に課題を抱える。米国の輸出規制を回避し、既存技術を駆使する戦略は一定の成果を見せたが、その内実は危うさを伴う。SMICの2023年通期設備投資額は前年比18%増の75億ドルに達し、国産化への執念をうかがわせる。この動きは、東京エレクトロンやディスコといった日本の製造装置・材料供給網にとって、短期的な商機と地政学的な緊張の双方を突きつけている。

SMIC「7nm」達成の技術的背景

SMICが達成した7nmプロセスは、極端紫外線(EUV)リソグラフィーを用いない旧来技術の延長線上にある。具体的には、波長193nmのフッ化アルゴン(ArF)液浸露光装置を複数回使用する「多重露光」と呼ばれる手法だ。これは、回路パターンを複数回に分けてウエハーに焼き付けることで、装置本来の解像度限界を超える微細化を試みる技術である。SMICは、オランダASML製の液浸DUV(深紫外線)スキャナー「NXT:2000i」などを主力に、この複雑な工程を構築したと見られる。同装置の解像度は理論上38nm程度であり、7nmの回路線幅を形成するには、露光とエッチングの工程を少なくとも3回、複雑な箇所では4回以上繰り返す必要がある。

この手法は、製造工程の長期化と複雑化を招き、生産効率を著しく低下させる。業界調査会社TechInsightsが2022年に分析したSMIC製7nm半導体の解析報告によれば、歩留まり(良品率)は推定30%から50%の範囲にとどまる。これは、EUVリソグラフィーを用いて1回の露光で同等プロセスを実現する台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子の90%を超える歩留まりと比較して、商業的に見劣りする水準だ。多重露光は、重ね合わせの精度誤差が累積しやすく、わずかなズレが半導体の不良に直結する。この精度を補償するため、東京エレクトロン製の塗布・現像装置(コータ・デベロッパ)やSCREENホールディングス製の洗浄装置、ディスコ製の研削・切断装置といった、周辺工程を担う日本製の高性能な装置群が不可欠となる。SMICの7nmは、単独の技術的突破というより、既存の国際的な供給網を最大限活用した結果と評価するのが妥当である。

なぜ中国は先端装置を自製できないのか

中国が半導体製造装置、特に最先端リソグラフィー装置の国産化に苦慮する理由は、その極めて複雑な構造と、特定企業による部品の寡占にある。リソグラフィー装置は「史上最も精密な機械」と称され、2万点以上の部品から構成される。その中核をなすのは、光源、光学レンズ、そしてウエハーを載せるステージの三要素だ。ASMLのEUV装置の場合、光源は米サイマー(ASML子会社)が、反射鏡などの光学系は独カール・ツァイスが独占的に供給しており、代替が利かない。これらの部品一つを開発するだけでも、数十年単位の研究開発と10億ドルを超える投資が必要とされる。

中国の国産装置メーカー、上海微電子装備(SMEE)が開発した最上位機種「SSA600/20」は、ArF液浸技術に対応するものの、解像度は28nmにとどまる。これはASMLが10年以上前に市場投入した世代の技術水準であり、7nmの製造に必要な多重露光を安定して行う性能には達していない。米国の調査機関である戦略国際問題研究所(CSIS)が2023年5月に発表した報告書は、中国の装置メーカーが光学系や高精度な駆動部品の製造基盤を欠いている点を指摘している。さらに、ASMLや日本の装置メーカーが構築した数千件に及ぶ特許網が参入障壁として機能しており、後発企業が類似技術を開発することは法的に極めて困難である。2022年10月に米国が導入した対中輸出規制は、14nm以下のロジック半導体製造に関わる米国製装置・技術の輸出を厳しく制限しており、中国が海外から最新技術を導入する道は事実上閉ざされた。これにより、自前での開発が一層不可欠となったが、その道のりは依然として険しい。

国産化の「アキレス腱」となる先端材料

製造装置と並び、中国の半導体国産化における重大な弱点となっているのが先端材料分野だ。特に、回路の原版となるフォトマスクの素材や、ウエハーに回路を転写する感光材であるフォトレジスト、半導体の基板となるシリコンウエハーといった基幹材料は、日本企業が世界市場で高い占有率を維持している。経済産業省の2023年版製造基盤白書によると、EUV用フォトレジスト市場ではJSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムの日本企業4社で世界市場の約9割を占める。これらの材料は、ナノメートル単位の不純物管理と均質性が求められ、長年の経験と緻密な品質管理が競争力の源泉となっている。

中国国内でも、南大光電や晶瑞電材といった企業がArF用フォトレジストの国産化を進めているが、その品質は日本製品に及ばない。半導体業界の技術者によれば、中国製レジストは感度や解像度のばらつきが大きく、安定した歩留まりの維持が困難だという。同様に、シリコンウエハー市場も信越化学工業とSUMCOの日本2社で世界市場の約6割を握る。半導体の性能はウエハー表面の平坦度や結晶欠陥の少なさに大きく左右されるため、高品質なウエハーの安定供給は先端半導体製造の生命線である。2019年に日本政府が実施した韓国向けフッ化水素などの輸出管理厳格化措置は、特定材料の供給停止が半導体生産に致命的な影響を与えることを示した。中国は現在、こうした材料の国産化率向上を国家目標に掲げ、2025年までに主要材料の自給率を70%に引き上げる計画だが、達成は容易ではない。先端材料は、装置以上に模倣が困難な「すり合わせ技術」の結晶であり、中国にとって長期的な課題として残る。

米国規制がもたらす「迂回」と「空白」

2022年10月に米国商務省産業安全保障局(BIS)が発表した輸出規制は、中国の先端半導体開発を直接的に狙うものだった。この規制は、14nm以下のロジック半導体、128層以上のNAND型フラッシュメモリー、18nm以下のDRAMを製造する中国企業に対し、米国製の装置、部品、技術の輸出を原則禁止する。この措置は、中国が最先端の演算能力を軍事転用することを防ぐ安全保障上の狙いが大きい。結果として、ASMLはEUV装置の対中輸出を停止し、米国の装置メーカーであるアプライド・マテリアルズやラムリサーチも先端装置の供給を絶った。これにより、中国国内の半導体工場では、7nm以降の微細化に向けた技術開発の道筋が事実上断たれた形だ。

一方で、この規制は意図せざる「迂回」と「空白」を生み出している。規制対象外である28nm以上の成熟世代の半導体製造装置については、依然として輸出が可能だ。中国企業はこれを好機と捉え、電気自動車(EV)や産業機器向けのパワー半導体、アナログ半導体といった成熟世代の生産能力を急拡大させている。業界調査会社TrendForceの2024年3月の報告によれば、中国は2027年までに世界の成熟プロセス(28nm以上)生産能力における占有率を39%まで高める見通しだ。これは、規制によって生じた先端分野の「空白」を、成熟分野の物量で埋めようとする戦略と見られる。この動きは、世界的な成熟半導体の供給過剰と価格競争を招く可能性があり、ルネサスエレクトロニクスやインフィニオンテクノロジーズといった既存の有力企業にとって新たな脅威となりつつある。米国の規制は、先端技術の封じ込めに一定の効果を上げたが、半導体市場全体の構造を歪ませる副作用も同時に引き起こしている。

日本企業が直面する選択

米中の技術覇権争いは、日本の半導体関連企業に複雑な選択を迫っている。短期的には、中国の旺盛な設備投資は大きな商機となる。日本の財務省が公表した貿易統計によれば、2023年の半導体製造装置の対中輸出額は前年比46%増の約1兆3000億円に達し、総輸出額の4割以上を占める最大の仕向け地となった。これは、中国が米国の規制が及ばない成熟世代の装置を大量に購入しているためだ。東京エレクトロンの2024年3月期決算における中国向け売上高比率は47%に達し、過去最高を記録した。しかし、この活況は米国の規制強化リスクと常に隣り合わせである。

米国政府は、日本やオランダに対し、旧型のDUV露光装置の一部についても対中輸出規制を強化するよう圧力をかけている。もし、ArF液浸装置などが規制対象となれば、SMICの7nm生産ラインは維持が困難になり、日本の装置メーカーの売上にも直接的な打撃となる。企業は、目先の利益と地政学的な長期リスクを天秤にかける難しい経営判断を求められている。一部の企業は、生産拠点や研究開発機能の多元化を進め、特定地域への過度な依存を低減する動きを見せ始めている。また、日米両政府が主導する次世代半導体の研究開発プロジェクト「Rapidus」への参画のように、非中国圏での新たな生態系構築に活路を見いだそうとする動きもある。中国という巨大市場とどう向き合うか。それは、米国の政策、中国の国内動向、そして自社の技術的優位性という三つの要素を常に見極めながら、柔軟かつ戦略的に立ち位置を調整していくしかない。日本の半導体産業にとって、かつてない視界不良の航海が続いている。