中国の半導体国産化は、米国の厳格な輸出規制下で既存の旧型装置を駆使し、中芯国際集成電路製造(SMIC)が7ナノメートル(nm)級半導体を限定的に製造する段階にある。華為技術(ファーウェイ)の2023年発売の新型スマートフォンに搭載されたことでその到達点が表面化したが、その製造コストは台湾積体電路製造(TSMC)製の同世代品に比べ3倍以上に達すると推定される。米国は2024年に入り、日本やオランダと連携して規制の網をさらに狭めており、東京エレクトロンやSCREENホールディングスなど日本の製造装置メーカーは難しい選択を迫られている。これは世界の半導体供給網の構造変化を加速させる号砲とも言える。

SMIC製7nm、旧式露光装置の限界

2023年8月に発売されたファーウェイのスマートフォン「Mate 60 Pro」に搭載された半導体「Kirin 9000S」は、SMICが7nmプロセスで製造したことが専門機関の分解調査で明らかになった。これは、オランダASML製の最先端露光装置であるEUV(極端紫外線)リソグラフィ装置の輸入が禁止される中で達成された。その技術的な核は、一世代前のDUV(深紫外線)液浸リソグラフィ装置、具体的にはASMLの「NXT:2000i」や「NXT:2050i」といった機種を用いた多重露光(マルチパターニング)技術である。DUVが用いるArFエキシマレーザーの波長は193nmであり、これを複数回重ねて照射することで、EUVの13.5nm波長に匹敵する微細な回路パターンを形成する手法だ。しかし、この工程は極めて複雑で、ウエハー上の同じ場所に寸分の狂いなく複数回の露光とエッチングを繰り返す必要がある。その結果、製造の歩留まりは著しく低下する。業界調査会社TrendForceの2023年10月の分析によれば、SMICの7nmプロセスの歩留まりは20%から30%程度に留まると推計されており、これはTSMCや韓国サムスン電子が同世代プロセスで達成している90%超という水準とは比較にならない。この低い歩留まりは製造コストに直接反映され、チップ1個あたりのコストはTSMC製の3倍から5倍に達するとの見方が支配的だ。限定的な高性能品の生産は可能でも、大規模な商業生産で採算を合わせるのは極めて困難な状況を示唆している。

なぜ米国は規制の「抜け穴」を塞ぐのか?

米国の対中半導体規制は、特定の企業を対象とするエンティティリストから、特定の技術水準を狙い撃ちする包括的な輸出管理へと段階的に強化されてきた。転換点となったのは、米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月7日に発表した広範な輸出規制だ。この規制は、ロジック半導体では14nmまたは16nm以下の微細化技術、DRAMでは18nmハーフピッチ以下のメモリー、NAND型フラッシュメモリーでは128層以上の積層技術に関連する製造装置、技術、ソフトウェアの中国向け輸出を原則禁止した。しかし、SMICの7nm生産が明らかにしたのは、規制対象外の旧型DUV液浸装置など、既存の設備を活用することで規制の意図を部分的に迂回できる「抜け穴」の存在だった。これを受け、米国は規制の網をさらに狭める動きを加速。2023年10月には規制内容を更新し、装置の性能パラメータを細かく指定することで対象範囲を拡大した。これに呼応し、日本政府も2023年7月23日から外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく輸出管理令を改正し、先端半導体製造装置23品目を輸出許可の対象に追加した。これにより、東京エレクトロンの成膜・エッチング装置やSCREENの洗浄装置など、EUV関連以外の広範な装置が事実上、中国の先端工場向けには輸出できなくなった。ASMLも2023年末で旧型のDUV装置の一部について中国向け輸出ライセンスが失効しており、日米蘭の連携による包囲網は着実に狭まっている。

国産化を支える日本の「隠れた基盤技術」

中国の半導体国産化の試みは、製造装置だけでなく、その根幹を支える素材や部品の供給網においても大きな課題に直面している。特に日本の素材メーカーが世界市場で圧倒的な占有率を握る分野は、中国にとって代替が難しいボトルネックとなっている。例えば、微細な回路パターンをウエハーに転写するフォトレジスト(感光材)では、JSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムの日本4社でEUV向け製品の世界市場のほぼ全てを占める。シリコンウエハーにおいても、信越化学工業とSUMCOの2社で世界占有率の約6割を確保している。半導体製造に不可欠な高純度のフッ化水素も、ステラケミファや森田化学工業といった日本企業が高い品質で供給網を支える。中国国内でも代替素材の開発は進められているが、純度や品質の安定性において日本製品に及ばず、先端プロセスでの採用は限定的と見られる。例えば、フォトレジストでは、中国の彤程新材(Kempur)などが開発を進めているが、SMICの7nmプロセスで実際に使用されているのはJSRなど日本から輸入された製品であるとの見方が有力だ。半導体産業は、こうした多数の基盤技術が複雑に絡み合うサプライチェーンの上に成り立っており、一つの要素技術の欠如が全体の性能を規定してしまう。中国の国産化は、この供給網全体を国内で再構築するという壮大かつ困難な挑戦に他ならない。

2030年に向けた投資と人材獲得の現実

米国の規制強化に対し、中国は巨額の国家投資で対抗する姿勢を鮮明にしている。2014年に設立された国家集積回路産業投資基金(通称「大基金」)は、第1期で約1,387億元(約2.8兆円)、第2期(2019年)で約2,041億元(約4.1兆円)を半導体産業に投じた。そして2024年5月、過去最大規模となる3,440億元(約7兆円)の第3期基金の設立が報じられた。この資金は、長江存儲科技(YMTC)や長鑫存儲技術(CXMT)といったメモリーメーカーや、国内の製造装置・素材メーカーの育成に重点的に配分されると見られる。しかし、資金だけでは解決できないのが人材の問題だ。先端半導体の開発・製造には、長年の経験を積んだ高度な技術者チームが不可欠である。台湾の調査機関、集邦科技(TrendForce)の2023年の報告によると、中国の半導体企業は台湾のTSMCや聯華電子(UMC)から、3倍以上の給与を提示して技術者を引き抜く動きを活発化させている。特に、プロセスの立ち上げや歩留まり改善の経験を持つ中堅技術者が主な対象となっている。こうした人材獲得は一定の成果を上げているものの、組織文化の違いや技術開発の方向性の不一致から、期待されたほどの効果を上げていないケースも少なくない。巨額の投資が必ずしも技術的自立に直結しない現実は、かつてDRAM事業で苦戦した多くの後発企業の歴史とも重なる。

日本企業が直面する二者択一

米中間の技術覇権競争は、日本の半導体関連企業に踏み絵を迫っている。日本は米国の同盟国として輸出管理の足並みを揃える一方、中国は日本の製造装置・素材メーカーにとって最大の顧客でもある。東京エレクトロンの2024年3月期決算では、中国向け売上高比率が47%に達し、過去最高を記録した。これは、米国による規制強化が本格化する前の駆け込み需要や、規制対象外である28nm以上の成熟プロセス向け装置の需要が旺盛だったためだ。しかし、米国が規制対象を旧型装置や保守サービスにまで拡大する可能性が取り沙汰される中、この「特需」が永続しないことは明らかだ。日本企業は、巨大な中国市場へのアクセスを維持しつつ、米国の規制に準拠するという難しい舵取りを要求される。具体的には、輸出する装置や材料が最終的にどの工場のどのプロセスで使用されるかを厳格に管理する「最終用途確認(End-Use Check)」の徹底が不可欠となる。もし管理が不十分で規制違反と見なされれば、米国のエンティティリストに追加され、米国由来の技術や部品へのアクセスが絶たれるリスクを負う。これは事実上、グローバルな事業活動からの追放を意味しかねない。一部の企業は、中国国内に研究開発や製造の拠点を設け、米国技術を含まない「中国市場向け」製品を開発する動きも見せるが、これもまた米国の警戒を招く可能性がある。先端技術の供給網から中国を切り離そうとする米国主導のブロック化と、巨大市場としての中国との関係維持。この二者択一の狭間で、日本の半導体産業は自らの立ち位置を再定義する正念場を迎えている。