中国のソーシャルメディア(SNS)上で、加工や演出を排した「素顔」の旅行記が新たなトレンドとなっている。ありのままの風景や体験を切り取った投稿が「リアルだ」と多くのユーザーから共感を集めており、背景にはSNSのアルゴ-リズムの変化も影響しているとみられる。

「素顔のパリ」と「素顔の南極」

このトレンドの火付け役となったのが、河南省出身のある年配男性が投稿したパリ旅行の写真だ。エッフェル塔をまるで地元の鉄塔のように、セーヌ川を村の水路のように撮影した飾らない作風が話題を呼び、ネットユーザーから「素顔のパリ」と名付けられた。

同様に、中国の著名なコメディアンである李誕氏が南極を訪れた際の投稿も注目を集めた。同氏は、ペンギンの糞の臭いが漂う中でインスタントラーメンを食べる様子を公開。華やかさとは無縁のリアルな体験記は「素顔の南極」として拡散され、多くの支持を得た。

「映え疲れ」が変えるコンテンツ潮流

これまでSNS上の旅行記は、美しい風景や豪華なホテルなど、入念に加工された「映え」を追求するものが主流だった。しかし、こうした非日常的なコンテンツの氾濫は、一部のユーザーに「映え疲れ」とも呼べる食傷気味の感情を生み出していた。

今回の「素顔」ブームは、その反動とみることができる。中国メディアの報道によると、SNSプラットフォーム側も、過度に演出されたコンテンツより、ユーザーの共感や反応(エンゲージメント)を高く獲得できるリアルな投稿を、アルゴリズムが優先的に述べたする傾向を強めているという。この変化が、ありのままの体験を共有する動きをさらに後押ししている格好だ。

日本への影響と今後の展望

中国SNSにおける「映えない旅行記」の流行は、日本の観光産業に対し、従来のプロモーション戦略の見直しを迫る。これまで中国からの訪日客誘致は、桜や富士山といった「映える」景観や、高級ホテル、ブランド品といった消費体験を強調する傾向にあった。しかし、河南省出身の年配男性による「素顔のパリ」や、コメディアン李誕氏の「素顔の南極」が示すように、中国のネットユーザーは過度な演出に「映え疲れ」を感じ、よりリアルで人間味のある体験を求めている。

このトレンドは、日本の地方観光地や、日常生活に根ざした体験型コンテンツに新たな機会をもたらす。例えば、日本の農村での農作業体験、地方の商店街での地元住民との交流、あるいは温泉地の素朴な共同浴場など、これまで「地味」と見なされがちだった要素が、中国のSNSで共感を呼ぶ可能性を秘めている。日本の観光関連企業は、豪華さや完璧さよりも、ありのままの風景や、予期せぬ出会い、そして「ペンギンの糞の臭いの中でインスタントラーメンを食べる」といった人間的な体験を前面に出した情報発信を強化すべきだ。これにより、従来の富裕層だけでなく、より幅広い層の中国からの訪日客、特にリアルな体験を重視する個人旅行客の獲得に繋がるだろう。また、日本の地方自治体は、地域の日常風景や生活文化を掘り起こし、中国のインフルエンサーと連携して発信する戦略を検討する時期に来ている。