ドナルド・トランプ米大統領の第2期政権が、2026年1月20日で発足から1年を迎えた。「米国第一」をさらに推し進める一連の政策は、世界の経済・安全保障の枠組みを根底から揺るがしている。対中追加関税の全面的な引き上げや、北大西洋条約機構(NATO)加盟国への防衛費増額要求など、予測不能な行動は同盟国との間に亀裂を生じさせ、世界は新たな地政学的リスクへの対応を迫られている。

事実の整理

トランプ政権2期目の発足後1年間で、以下の主に政策が実行された。

  • 経済・通商政策: 2025年3月、中国からの輸入品全般に対し、税率を一律60%以上に引き上げる大統領令に署名。同年6月には、米国の貿易赤字を理由に欧州連合(EU)製の自動車に25%の追加関税を発動した。これにより、世界のサプライチェーンは再び深刻な混乱に陥っている。
  • 安全保障・外交政策: ウクライナへの軍事支援を全面的に停止し、停戦交渉をロシア主導で進めるよう圧力をかけた。NATO加盟国に対しては、国内総生産(GDP)比3%の国防費拠出を新たな基準として要求。達成できない国には、集団的自衛権を定めたNATO条約第5条の適用を保証しない可能性を示唆した。ブルームバーグの2026年1月15日の報道によると、この発言は欧州各国の首脳に衝撃を与えた。
  • 国内政策: 2025年秋、保守派の最高裁判所判事を新たに1名指名し、保守派優位(6対3)の構成をさらに固めた。移民・関税執行局(ICE)は、国内の不法移民に対する大規模な摘発・強制送還作戦を全米で展開している。

表層的原因と直接的仕組み

これらの強硬策の直接的な推進力は、トランプ大統領が掲げる「米国第一」主義と、それを熱烈に支持する選挙基盤にある。2024年の大統領選挙で公約した「不公正な貿易慣行の是正」と「同盟国のただ乗り論の解消」を、支持層へのアピールのために矢継ぎ早に実行している形だ。

政権運営の仕組みとしては、1期目以上にホワイトハウス主導のトップダウン型意思決定が際立っている。国務省や国防総省といった官僚機構の意向を無視し、大統領令を多用することで政策を迅速に断行する。共和党内では依然として圧倒的な影響力を維持しており、議会からの抵抗も限定的だ。この権力集中が、同盟国との事前調整を欠いた一方的な政策決定を可能にしている。

深層的原因と構造的背景

一連の政策の背景には、米国内で数十年にわたり進行してきた構造的な変化がある。第一に、グローバリゼーションの進展による国内の産業空洞化と所得格差の拡大だ。特に「ラストベルト」と呼ばれる中西部の元工業地帯では、自由貿易体制への不満が根強く、保護主義的な政策への強い支持につながっている。

第二に、中国の経済的・軍事的台頭に対する米国の超党派的な危機感である。バイデン前政権は同盟国と協調して先端半導体などの対中技術規制を強化したが、トランプ政権はより直接的な関税という手段で、中国との経済的デカップリング(切り離し)を狙う。アプローチは異なるが、中国の挑戦を米国の覇権に対する脅威とみなす認識は共通している。米議会調査局の2025年12月の報告書は、対中強硬策が党派を超えた支持を得ている数少ない政策分野だと分析している。

歴史的経緯を見ると、トランプ氏の政策は1期目(2017-2021年)の行動の延長線上にある。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱(2017年)、パリ協定からの離脱(2017年)、そして対中貿易戦争の開始(2018年)といった過去の政策が、2期目でさらに急進的かつ大規模に展開されている。

構造分析と政策・産業のメタパターン

トランプ政権の孤立主義的な動きに対し、中国はこれを好機と捉え、したたかな戦略を展開している。ここには、外部からの圧力を国内統制の強化と国際的な影響力拡大のテコにするという、中国共産党の典型的な行動パターンが見られる。

過去の米国の圧力(例:1989年天安門事件後の制裁、2018年貿易戦争)と同様に、中国は今回も「自力更生」と「内循環(国内大循環)」を柱とする経済政策を加速させている。新華社通信は2025年を通じて、米国の保護主義を批判しつつ、国内の技術革新と内需拡大の重要性を繰り返し強調した。これは、外部環境の不確実性が高まるほど、党の指導の下で国内経済の自律性を高めようとする一貫した戦略の発露である。

同時にに、米国が国際社会で築いた空白を埋める動きも活発化させている。米国抜きのCPTPPや、中国が主導する地域的な包括的経済連携(RCEP)の枠組みを活用し、アジア太平洋地域での経済的な主導権を強化。さらに、「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国・途上国に対し、「一帯一路」構想を通じたインフラ投資や経済支援をテコに、米ドルに依存しない決済システムの構築を働きかけている。これは、米国の単独行動主義を逆手に取り、中国を中心とする新たな国際秩序を構築しようとする長期的な狙いがあると推察される。

日本にとっての意味

トランプ政権2期目の保護主義と単独行動主義は、日本の経済と安全保障に直接的な影響を及ぼす。まず、対中追加関税の第4弾発動やEUへの新たな関税賦課といった貿易戦争の再燃は、日本のサプライチェーンに深刻な混乱をもたらすリスクがある。特に、中国に生産拠点を置く日本企業は、関税の二重課税や輸出入の停滞により、収益悪化や生産計画の見直しを迫られる可能性がある。

次に、中東ガザ情勢におけるイスラエル寄りの姿勢や、ロシア・ウクライナ紛争からの距離置きは、日本のエネルギー安全保障に影響を与える。中東情勢の不安定化は原油価格の高騰を招き、輸入依存度の高い日本経済に打撃を与える。また、ウクライナ情勢への米国の関与低下は、国際的な安全保障協力体制の弱体化を意味し、東アジアにおける日本の安全保障環境にも不透明感を増す。

さらに、米移民・関税執行局(ICE)による国内不法移民への強硬な取り締まりは、米国に進出する日系企業の労務管理に新たな課題を突きつける可能性がある。不法就労者の雇用に対する規制強化や、サプライヤーにおける労働力不足は、米国での事業展開に予期せぬコスト増や遅延を発生させる懸念がある。

これらの動きは、日本が米国一辺倒の外交・経済戦略を見直し、「戦略的自律」を追求する欧州や「双循環」戦略を加速させる中国のように、多角的なリスクヘッジと国際協力の枠組みを再構築する必要性を示唆している。

情報信頼性評価

本分析の主な情報源は、ホワイトハウスの公式発表、主に通信社(ロイター、ブルームバーグ)の報道、および米議会調査局などの公的機関の報告書に基づいている。トランプ政権の政策決定は公式発表で確認できるが、その背景にある意図や内部の力学については、匿名高官からのリーク情報に依存する部分も多い。

中国側の戦略については、新華社通信や人民日報といった国営メディアの論調から公式見解を読み取ることができる。しかし、党中央の非公開の会議で決定される真の戦略意図は、外部からの観測に基づく推測に頼らざるを得ない限界がある。今後の米中間選挙(2026年秋)の結果や、中国の全国人民代表大会(全人代)で示される新たな政策方針が、情勢を判断する上で重要な指標となる。

Core Insight (核心まとめ)

トランプ政権2期目の「米国第一」は単なる保護主義ではなく、戦後国際秩序の解体と再編を狙う構造的挑戦であり、各国は同盟か自立かの根本的選択を迫られている。