中国IT大手のテンセントが、自社運営のSNSアプリ「WeChat(WeChat(微信))」において、AIアシスタント「元宝」のプロモーション活動を停止したことが分かった。ユーザーにシェアなどを促す行為がWeChatの規約に違反したため。グループ内のサービスであってもプラットフォームの規約を厳格に適用する姿勢を示した形だ。

WeChat規約違反で自社AIキャンペーンを停止

WeChatの公式発表によると、AIアシスタント「元宝」が展開していた「紅包(ホンバオ、電子お年玉)」を配布するキャンペーンが停止された。理由は、WeChatの規約で禁止されている「シェアやフォローを誘導する行為」が含まれていたためとされている。

このキャンペーンはユーザー獲得を目的としていたが、一部で過度な通知や誘導が発生し、ユーザー体験を損なっているとの指摘も上がっていた。テンセントは、プラットフォームの健全性を維持するため、自社開発のサービスに対しても例外なく規約を適用し、違反が確認された活動を停止する措置を取った。

テンセントのAI戦略の中核「元宝」

「元宝」は、テンセントがAI戦略の中核に拠える消費者向けのAIアシスタントだ。AIによる検索、複数形式の文書解析、コンテンツの自動生成といった、多様な場面で利用できる機能を備えている。

テンセントは「元宝」を、急成長する消費者向けAI市場での競争力を確保するための重要なサービスと位置づけている。今回のキャンペーン停止は、積極的なサービス拡大と、10億人以上のユーザーを抱える巨大プラットフォームWeChatの規律維持という、難しいバランスのなかで下された判断だとみられる。

日本企業への示唆

今回のテンセントによる自社AI「元宝」のプロモーション停止は、日本企業にとって中国市場におけるデジタルマーケティング戦略の再考を迫る。WeChatが「シェアやフォローを誘導する行為」を禁止し、グループ内のサービスであっても厳格に規約を適用した事実は、中国の巨大プラットフォームが、ユーザー体験の健全性を優先する姿勢を明確にしたことを意味する。

特に、中国市場でWeChatを主要なマーケティングチャネルとする日本のアパレルや化粧品メーカーは、従来のSNSキャンペーン手法を見直す必要がある。例えば、友人へのシェアを条件とした割引クーポン配布や、公式アカウントのフォローを促すインセンティブ付与といった手法は、今後WeChatの規約に抵触する可能性が高まる。これにより、新規顧客獲得のコスト増大や、既存顧客とのエンゲージメント維持における新たな課題が生じるだろう。

また、テンセントが10億人以上のユーザーを抱えるWeChatの規律維持を優先したことは、中国のプラットフォーム企業が、市場支配力を行使しつつも、政府の規制強化やユーザーからの反発を回避するため、自主的な規律強化に動いていることを示唆する。この動きは、アリバババイトダンスといった他の巨大プラットフォームにも波及する可能性があり、日本企業が中国で事業展開する上で、プラットフォーム側のルール変更に迅速に対応できる体制構築が不可欠となる。中国市場でのデジタル戦略は、常に流動的であるという認識を持つべきだ。