AIデータセンターの電力が800V直流へ移行し、固体変圧器(SST-Solid State Transformer)とSiC・GaNが主役に。1MW級ラックで銅を45%削減、エヌビディアはローム等14社を供給網に組み込む。納期2〜4年の変圧器難と日本の黒子技術を読む。

AIデータセンターの電力供給が交流から800ボルトの直流へ移り、鉄芯変圧器を半導体で置き換える固体変圧器(SST)が投資の主役に浮上した。エヌビディアは2027年量産の「Kyber」ラックで1メガワット級給電を見据え、ローム、ルネサスエレクトロニクス、インフィニオンら14社を電源半導体の供給網に組み込んだ。800V化で給電の銅は最大45%減る。一方で大型変圧器の納期は2〜4年に伸び、米国では2026年に計画したデータセンターの半数超が遅延の恐れにある。電力の入り口から計算チップまで、変換の各段を握る素材と半導体の競争が静かに始まっている。

なぜ電力を800V直流へ移すのか

AIサーバーの集積が進み、1ラックの消費電力が500キロワットから1メガワット級へ跳ね上がった。従来の54ボルト直流で1メガワットを送ると、必要な銅は200キログラムを超える。電力は電圧と電流の積で決まり、発熱は電流の二乗に比例する。電圧を800ボルトへ引き上げれば、同じ電力を低い電流で送れるため、銅の断面積を最大45%削れる。送電損失と重量、設置の制約が同時に和らぐ。

エヌビディアは交流からの変換段を減らし、800ボルト直流を母線として直接ラックへ配る設計に切り替えた。ナビタス・セミコンダクターと次世代の800ボルト高圧直流(HVDC)を共同開発し、同社のGaNFastとGeneSiCを採用する。供給網には電源システム側のデルタ電子やヴァーティブ、GEバーノバも名を連ねる。ヴァーティブは2026年下期に800ボルト直流の製品群(整流器、直流母線、ラック内DC-DC、直流対応のバックアップ電源)を投入し、エヌビディアのKyberラックは2027年に量産へ入る。建物の受電から計算チップまでを直流で貫く構想が、業界標準として固まりつつある。

SiCとGaNが分け合う変換

電力変換を担う半導体は、電圧帯で役割がはっきり分かれる。炭化ケイ素(SiC)はバンドギャップがシリコンの約3倍、絶縁破壊電界が約10倍あり、薄いドリフト層で高い電圧を阻止できる。同じ耐圧でオン抵抗と損失を抑えられ、高温・高周波でも動く。このため建物側のSST(SiC 3.3キロボルト級)やAC-DC整流器(SiC 1200ボルト)、ラックのBBU、構内BESSのインバータといった650ボルト超の領域はSiCの主戦場になる。

ラック内の降圧はガリウムナイトライド(GaN)が握る。GaNは結晶界面に高速の二次元電子ガスを生み、低いオン抵抗と速い切り替えを両立する。800ボルトから48ボルトへ落とすDC-DCはGaN 650ボルトとLLC共振トポロジーの組み合わせで高効率化し、48ボルトから1ボルト前後へ落としてGPUとHBMに供給するVRMはGaN 100ボルトが担う。ロームはこの全段に製品をそろえる。EcoGaNとして150ボルトと650ボルトのGaNを、LLC向けには第4世代SiCのモジュールHSDIP20を、48ボルト系のホットスワップ向けには100ボルトのMOSFET「RY7P250BM」をオン抵抗1.86ミリオームで供給する。素材の使い分けが、変換効率と電力密度を直接左右する。

固体変圧器が崩す重電の常識

電力供給の最大の詰まりは、半導体ではなく入り口の大型変圧器にある。13.8キロボルトの系統電圧を扱う鉄芯変圧器は数トン級で、納期は2〜4年、案件によっては5年に達する。供給逼迫を背景に、米国では2026年に計画されたデータセンターの半数超が電力機器不足で遅れる恐れがあると報じられた。日立エナジーは変圧器事業に15億ドル(全体で90億ドル規模)を投じ、米バージニア州サウスボストンに4億5700万ドルを投じた工場を2028年に同国最大級の大型変圧器拠点へ育てる。

ここにSST(固体変圧器)が割って入る。SiCを高周波で駆動し、小型の高周波変圧器で降圧して800ボルト直流を直接取り出す方式で、鉄芯の巨体を半導体に置き換える。新興のHeron Powerは「Heron Link」で34.5キロボルト交流を800ボルト直流へ直接変換し、変換効率98.5%、設置面積7割減、1台あたり4.2メガワットを掲げる。2027年初に5メガワット品の試験生産を始め、同年下期に40ギガワット規模の量産を計画する。DG Matrixはインフィニオン製SiCを使う多ポート型「Interport」で、すでに生産に入り2027年第2四半期までに10ギガワットの能力を整える。アンペアサンドは8000万ドルのシリーズAを調達した。SST新興は2026年3月までの1年で3億2000万ドル超を集めた。単体価格は従来比で高いが、配電盤や無停電電源、整流器を省けるため、システム全体では拮抗するか逆転する。SemiAnalysisは800ボルト直流が数十億ドル規模の電力機器市場を静かに塗り替えると分析する。

🔌 AI工場 電力供給アーキテクチャ

電力変換チェーン(電網→GPU/HBM)

階層コンポーネント入力出力主な半導体役割
建物側電網13.8kV AC電力供給元
建物側SST 固体変圧器13.8kV AC800V DCSiC 3.3kV+(または従来整流)降圧・直接DC出力
建物側AC-DC整流器(従来変圧器の後段)13.8kV AC800V DCSiC 1200V(PFC段)従来型の代替経路
建物側800V DC 主母線800V DC800V DCAI工場の基幹/1MW級ラック給電
ラック側ラックBBU(バックアップ電源)800V DC800V DC(予備)SiC 双方向即時バックアップ
ラック側ラック内DC-DC変換800V DC48V/54VGaN 650V(LLC共振トポロジー)中間バス変換
ラック側構内BESS(蓄電)蓄電/予備電力SiC 中高圧インバータ系統連系・再エネ・非常用
チップ側VRM 電圧調整モジュール48V1V(GPU/HBM)GaN 100V最終段の低電圧・大電流供給
チップ側GPU/HBM 計算チップ1V最終負荷

日本の黒子技術はどこで効くのか

表で目立つのは欧米とエヌビディアだが、変換の質を決める川上には日本が深く入り込む。ロームはエヌビディアの800ボルトHVDC構想に整合した電源ソリューションを2025年6月13日に公表し、AIサーバー向けの800ボルト直流アーキテクチャに関する技術文書を出した。シリコン14社の一角にルネサスも入る。SiCモジュールでは富士電機や三菱電機が強く、エヌビディアの公式リストには載らないものの、高圧パワー段の実装力を持つ。

より見えにくいのが素材と加工の層だ。SiCは結晶成長が難しく、長い時間をかけて単結晶を育て、薄く切って研磨し、エピタキシャル膜を載せる。この長晶・研磨・外延・検査の工程で日本の装置・材料メーカーが世界で高いシェアを握り、銀焼結や圧力接合といった先進実装でも要所を占める。基板で先行したウルフスピードが財務難に揺れ、エヌビディアの公式供給網からも外れた今、結晶と実装の「黒子技術」が業界全体のボトルネックを左右する。投資家が見落としがちなのは、表のデバイスメーカーだけでなく、その下流の加工・封止を担う企業の希少性だと見られる。耐震基準が厳しく用地の狭い日本では、軽量で屋上設置もできるSSTが鉄芯変圧器の置き換えとして相性が良く、国内特需と海外向けの差別化要因を同時に生む余地がある。

中国依存と供給網の安全保障

電源システムの実装では台湾のデルタ電子がエヌビディアの供給網に入り、中国の大型データセンターでの導入が先行したとされる。一方で、米欧と日本のハイパースケーラーは供給網の安全保障の観点から、中国依存を避けた電源を求める動きを強めている。SST新興のHeron PowerとDG Matrixは米国、アンペアサンドはシンガポールに拠点を置き、調達先の分散が進む。SiCや変圧器のように供給が一握りに集中する機器は、政策の対象になりやすい。素材から機器までを国内で押さえる垂直統合を急ぐ企業ほど、地政学の波に強くなる。中国の安値攻勢は低圧の汎用品にとどまり、高圧・高信頼の領域では日米欧の競争が当面続くと見られる。

日本企業が直面する選択

機会は二つの層に分かれる。

第一に、SiCの結晶成長・研磨・外延と銀焼結などの実装で、日本勢は表のデバイス不足を川上から間接的に押さえられる。デバイス単体の値動きを追うより、加工と封止の希少性に資金を向ける余地がある。

第二に、耐震とBESS統合、再エネ連系に最適化したSSTは、用地の狭い国内データセンターで鉄芯変圧器の完全な代替になり、海外でも差別化の軸になる。

一方でリスクも具体的だ。Heron PowerやDG Matrix、アンペアサンドの新興と、インフィニオンやヴァーティブ、日立エナジーの大手が標準を握る局面で、日本の重電が事業転換に遅れれば、入り口の高圧変換を取りこぼす。ウルフスピードの不振が示すように、SiC基板の供給不安と材料の偏在は価格を揺らし、過剰投資の反動も残る。

投資家は800ボルト直流の本格普及が2027年であることを踏まえ、信頼性データがそろう2026〜2027年の移行期をどう待つかが問われる。技術者にとっては、高圧SiC駆動と先進実装、共振変換の設計力が次の十年の希少資源になる。

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