AIサーバー1台のMLCCは一般サーバーの10倍超、GB200ラックは約44万個を要する。村田の時価総額18.9兆円、太陽誘電の利益5.4倍を支えるのは、チタン酸バリウムを握る日本の上流材料の非対称な強みだ。

AIサーバー1台が積むMLCC(積層セラミックコンデンサ)は一般サーバーの10倍を超え、GPUの電源を支える米粒大の部品が増産競争の主役になった。エヌビディアの「GB200 NVL72」ラックは約44万個を必要とし、村田製作所の時価総額は5月29日時点で18兆円台に乗せた。太陽誘電は2026年3月期の営業利益が前年比9割増、村田は4月に高容量品を最大35%値上げした。半導体の前工程ばかりが注目される一方で、完成したGPUを動かす最後の一手は、日本勢が握る微小なセラミック部品に懸かっている。

なぜAIサーバーはMLCCを大量に使うのか

MLCCはチタン酸バリウム(BaTiO3)の薄いセラミック層とニッケル電極を交互に数百〜千層積み、焼き固めた受動部品である。BaTiO3は強誘電体で比誘電率が数千に達するため、爪の先ほどの体積に大きな静電容量を収められる。GPUは演算負荷が一瞬で跳ね上がるたびに大電流を要求し、電源回路だけでは電圧が追従できない。そこでダイの直近にMLCCを敷き詰め、瞬間的な電流を肩代わりさせて電圧を安定させる。配置が遠いと寄生インダクタンスで応答が鈍るため、低ESL(等価直列インダクタンス)の小型品を高密度に並べることが性能の前提になる。

数量の差は劇的だ。一般的なサーバーが1,800〜3,000個なのに対し、H100/H200級のAIサーバーは約2万個、次世代のGB200/Rubin級では2万5,000〜3万個に増えると業界では見込む。ラック単位ではGB200 NVL72が約44万個に達する。しかも液冷モジュールの近傍に置くため高温耐久が要り、容量・耐熱・低ESLを同時に満たす高付加価値品しか通らない。サムスン電機がAIサーバー向けに1005サイズで47マイクロファラド、1608サイズで100マイクロファラドという超高容量品を開発したのも、この「狭い場所により多くの容量」という要求の表れである。

太陽誘電5.4倍益、村田の値上げが映す転換

数字が地殻変動を裏づける。太陽誘電は2026年3月期の純利益が前年の5.4倍に膨らみ、営業利益は199億9,600万円と91.2%増えた。1〜3月の受注は約5年ぶりに四半期1,000億円を超え、受注残と出荷の比率を示すブック・ツー・ビルは1.25と高水準にある。株価は5月19日の7,768円から26日には1万1,260円へ1週間で45%上昇した。2027年3月期は営業利益を50%増の300億円と見込む。

首位の村田はさらに規模が違う。時価総額は5月29日に18兆8,939億円となり、3月17日には高容量MLCCや車載・高周波品を対象に15〜35%の値上げを発表、4月1日から適用した。同社は2030年のAIサーバー向け需要が2025年比で3.3倍になるとみており、第1四半期の高容量品受注は前期比20〜25%増、稼働率は8割を超える。値上げ・数量増・高付加価値化の三つが同時に効く構図で、TDKや京セラも追う。京セラはシェア1割を目標に増産投資を進める計画とされ、出遅れの挽回を狙う。ブルームバーグは5月28日、太陽誘電幹部が「恐ろしいほど」の需要が供給網を圧迫していると語ったと報じた。

チタン酸バリウムが映す上流の急所

MLCCの製造は、BaTiO3粉末をスラリーに練り、離型フィルムの上に薄く流して乾かした「グリーンシート」にニッケル電極を印刷し、数百〜千層を重ねて切断・焼成し、端子を付けてめっきする流れをたどる。性能を決めるのは原料粉末の粒径とばらつきの制御で、層を薄くするほどナノ領域の純度管理がものを言う。ここに日本の隠れた強みが集中する。

BaTiO3粉末は堺化学工業、日本化学工業、石原産業傘下の富士チタンが手掛け、その原料の酸化チタンは石原産業やテイカが供給する。誘電特性を整える添加剤のジルコニウム化合物は第一稀元素化学工業が首位を握る。グリーンシートを支える離型・キャリアフィルムは東レと東洋紡が世界で高いシェアを持ち、2025年に増強した。完成品メーカーの株価が跳ねると、供給が細い上流の小型材料株はそれを上回る値動きになりやすい。先端ロジックで露光装置のレーザーテックや感光材の信越化学・JSRが脚光を浴びたのと同じ構図が、コンデンサーの世界でも起きている。

📊 MLCC関連株リスト

2026年5月下旬 時価総額更新

コード銘柄名特徴時価総額(2024-07-10・出典表)時価総額(2026-05下旬)
6981村田製作所MLCC世界シェア首位(2021年度出荷額)7,160,234百万円約18,893,893百万円(検証済・日経/IRBANK 5/29)
6976太陽誘電MLCC世界シェア3位620,361約1,900,000〜1,930,000(推計・要確認/株価+45%/週)
6762TDKMLCC世界シェア5位4,278,436約7,000,000〜8,000,000(推計・要確認)
6971京セラMLCCシェア5%?→投資で10%目標2,946,180約4,500,000〜5,300,000(推計・要確認)
5344MARUWA高熱伝導基板で世界シェア1位503,540約900,000前後(推計・要確認)
6997日本ケミコンアルミ電解首位、MLCCも35,192約120,000〜130,000(推計)
3101東洋紡MLCC向けフィルム92,255約150,000〜200,000(推計)
3402東レMLCC向けフィルム(ポリエステル)1,246,289約1,500,000〜1,800,000(推計)
5331ノリタケカンパニーリミテド子会社共立マテリアルがBaTiO3123,789約200,000〜300,000(推計)
4028石原産業酸化チタン供給/富士チタンがBaTiO366,028約150,000〜250,000(推計)
4100戸田工業BaTiO3供給12,644約50,000〜100,000(推計)
4078堺化学工業BaTiO3供給50,915約100,000〜200,000(推計)
4092日本化学工業BaTiO3供給24,761約60,000〜120,000(推計)
4027テイカ酸化チタン供給39,503約80,000〜150,000(推計)
5727東邦チタニウム酸化チタン供給103,343上場廃止(2026-05-28、JX金属 株式交換0.70)
4004レゾナック・ホールディングスレゾナック・セラミックスが酸化チタン699,482約800,000〜1,000,000(推計)
4082第一稀元素化学工業ジルコニウム化合物トップ/MLCC添加向け20,520約50,000〜100,000(推計)

なぜ台湾・中国勢は高層品で劣るのか

MLCCは低価格品なら台湾の国巨(ヤゲオ)や華新科(ウォルシン)、中国勢も量産できる。だが層を1,000層近くまで積み、車載やAIサーバーが求める高温・高信頼の領域に入ると、焼成時の歪みや層間のばらつきで歩留まりが落ち、ふるい落とされる。村田は出荷額で世界首位、サムスン電機が韓国で続き、高付加価値の主導権は日韓に偏る。データセンター向けの長期供給では、価格よりも「止まらない品質」が選定基準になるため、顧客との交渉力は表に出ない形で日本勢に傾く。中国の安値攻勢は民生の低端にとどまり、高端の値上げを止められていない。

2019年の対韓規制が示す材料の重み

部品より川上の材料が交渉カードになる構図は、過去に何度も表面化した。2019年に日本がフォトレジストやフッ化ポリイミド、高純度フッ化水素の対韓輸出管理を厳格化した一件は、最終製品でなく素材の押さえどころが効くことを示した。BaTiO3や酸化チタン、ジルコニウムも同じ性格を帯び、経済安全保障の文脈で重要物資として扱う議論が業界周辺で浮かぶ。再編も進む。東邦チタニウムはJX金属との株式交換(比率0.70)で5月28日に上場廃止となり、最終売買日は27日、効力発生は6月1日とされた。半導体材料での相乗効果と意思決定の迅速化が狙いで、上流のチタン供給がグループ内に取り込まれた。供給が一握りの企業に集中する裏側には、銀やニッケル、ジルコニウムの価格変動という見えにくいリスクも横たわる。

日本企業が直面する選択

機会の側では二つの軸が見える。

  • 第一に、村田が進める部品の埋め込みや電源モジュール化は、単価の高い「すり合わせ」に踏み込むことで台湾・中国勢との差を広げる余地がある。
  • 第二に、エッジAIやヒューマノイド、車載の電動化が広がれば、スマートフォン時代に匹敵する数量需要が別の裾野で戻ってくると見られる。

一方でリスクも具体的だ。過去のコンデンサー市況が示した過剰設備投資の反動は、需要の波が和らいだ局面で在庫と価格を同時に圧迫しかねない。銀・ニッケル相場の高止まりと中国勢の低端攻勢が重なれば、利幅は理論ほど厚くならない。投資家は本命株の高PERだけを見るのでなく、供給の細い上流材料の非対称性に資金配分の余地を探る局面にある。技術者にとっては、高温対応のスラリーや焼成、低ESL設計といった具体的な技能が次の十年の希少資源になる。