中国で、地方の一般大学に在籍する女子学生が無料の生成AIを駆使し、国内最難関とされる北京大学大学院に合格したことが、中国メディアの報道で明らかになった。この事例は、AIが教育格差を是正するツールとなりうる可能性を示す一方、学生が直面する経済的な壁も浮き彫りにしている。

独学で最難関に挑戦

この学生が在籍するのは、中国の大学ランキングで中堅に位置づけられる大学だ。大学統一入学試験(通によると「高考」)で実力を発揮できず、不本意な形で進学したという。中国の厳しい学歴社会において、トップエリートが集う北京大学への進学は極めて異例とされる。

大学で社会学に触れ、貧困や不平等といった社会問題に関心を持ったことから、自身の専門とは異なる北京大学大学院のソーシャルワーク専攻への挑戦を決意。しかし、所属大学には専門の指導教官がおらず、北京大学側も参考図書リストなどを公開していなかったため、独学での受験を余儀なくされた。

無料AIを「24時間家庭教師」に活用

情報も指導者もない状況で、彼女は生成AIを「24時間対応の家庭教師」として徹底的に活用した。主に使用したのは、中国のスタートアップが開発した無料AIDeepSeekだ。ソーシャルワークの膨大な知識体系の整理、研究手法の学習、小論文テーマの予測、面接のシミュレーションまで、あらゆる学習過程にAIを組み込んだ。

このほか、画像生成や模擬面接には「豆包」、論文の骨子作成には「訊飛星火」といった他の無料AIも補助的に利用した。高機能な海外の有料AIを使わなかった理由について、彼女は「無料なのに、なぜわざわざお金を払う必要があるのですか?」と答えたと報じられている。

月額20ドルの壁と「AI格差」

この発言は、多くの社会人にとって少額に感じられる月額20ドル(約3,000円)という料金が、学生にとっては極めて高いハードルであることを示した。中国のSNS上では、この発言に対し「学生にとって月額20ドルは大きな負担だ」「自分の学生時代なら到底払えなかった」といった共感の声が広がった。

この一件は、高性能なAIへのアクセスが経済力に左右される「AI格差」の問題を提起すると同時に、無料ツールでも創意工夫次第で最高学府への道が開けるという希望も示している。

日本への影響と示唆

今回の事例は、無料AI「DeepSeek」を駆使した中国の地方大学生が北京大学大学院に合格したことで、日本の教育機関や企業に複数の示唆を与える。

第一に、日本の大学は、中国の教育現場で無料AIが「24時間家庭教師」として活用され、難関大学院合格に寄与した事実を重く受け止めるべきだ。日本の教育機関は、AIを教育補助ツールとして導入する際、高額な有料サービスに偏らず、学生の経済的負担を考慮した無料AIの活用法を模索する必要がある。特に、地方大学や経済的に困難な学生に対し、AIを活用した学習機会の均等化を図る上で、中国での成功事例は具体的なヒントとなる。

第二に、月額20ドル(約3,000円)という金額が学生にとって大きな壁となる中国の状況は、日本のスタートアップ企業にとって新たな市場機会を示唆する。中国国内で無料AIが急速に普及している背景には、有料サービスへの経済的ハードルがある。日本企業は、高機能かつ無料、あるいは極めて低価格で利用できるAI教育ツールを開発することで、中国を含むアジア市場での競争優位性を確立できる可能性がある。

第三に、この学生がソーシャルワーク専攻という実践的な分野でAIを活用したことは、日本の社会人教育やリスキリングプログラムにも応用可能だ。AIが専門知識の習得だけでなく、小論文テーマ予測や面接シミュレーションといった実用的なスキル向上に貢献した事実は、日本の企業研修やリカレント教育において、AIを単なる情報検索ツールとしてではなく、実践的なスキルアップのパートナーとして組み込む可能性を示している。