中国の半導体産業は、国家目標「双炭」(2030年排出量ピークアウト)達成の圧力下で、人工知能(AI)による製造工程の省電力化を掲げる。しかし実態は米国の輸出規制を回避するため成熟工程の生産能力を急拡大しており、業界全体の電力消費量は急増の一途をたどる。国際環境NGOグリーンピースの2022年12月の報告書によれば、2030年には総電力消費がスイス一国の年間消費量に匹敵する1096億キロワット時(kWh)に達する見込みだ。これは日本の半導体装置・材料メーカーにとって新たな商機となる一方、台湾積体電路製造(TSMC)などが進める先端技術の省エネ化とは異なる、独自の課題を突き付けている。

AI最適化の虚実、データセンターが電力消費

中国の半導体受託製造(ファウンドリー)大手、中芯国際集成電路製造SMIC)や記憶素子大手の長江存儲科技(YMTC)は、製造効率の改善とエネルギー消費削減の切り札としてAI活用を積極的に打ち出す。具体的には、製造装置から収集される膨大な稼働データをAIで解析し、歩留まり(良品率)の向上や装置の予防保全、電力消費の最適化を目指すというものだ。例えば、シリコンウエハーの表面を研磨する化学機械研磨(CMP)工程において、スラリー(研磨剤)の流量や圧力をリアルタイムで調整し、電力と材料の無駄を省く試みが進んでいる。しかし、この取り組みは大きな矛盾を内包する。AIモデルの学習と推論には、それ自体が膨大な電力を消費するデータセンターが必要不可欠だからだ。米ローレンス・バークレー国立研究所の2023年の分析では、大規模なAIモデルの学習1回あたりの二酸化炭素排出量は、航空機での米大陸横断飛行の約300回分に相当すると試算されている。半導体工場内で閉じたAI活用で削減できる電力よりも、そのAIを稼働させるためのデータセンターの電力消費が上回る「電力の逆転現象」が起きかねない。中国半導体業界のAI活用は、環境負荷低減という実利よりも、国家の技術自立と脱炭素という二つの目標を同時に掲げるための象徴的な意味合いが強いと見られる。

なぜ成熟工程の拡大が電力消費を増やすのか?

米国の輸出規制により、回路線幅7ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の先端半導体の製造に必要な極端紫外線(EUV)露光装置の導入が事実上不可能となった中国勢は、規制対象外の28ナノ世代以上の「成熟工程」で生産能力を急拡大する戦略にかじを切った。台湾の調査会社トレンドフォースの2024年3月の調査によると、中国のファウンドリー世界市場における生産能力シェア(12インチウエハー換算)は2023年の26%から2027年には33%まで上昇する見通しだ。この成熟工程への集中が、電力消費を構造的に押し上げる要因となっている。先端工程では、オランダASML製のEUV露光装置「NXE:3800E」などが1回の露光で微細な回路を形成する。これに対し、成熟工程で同等の集積度を実現しようとすると、旧世代の液浸ArF(フッ化アルゴン)露光装置を用いた「多重露光」という手法が必要になる。これは、同じウエハーに複数回、少しずつずらしながら回路パターンを焼き付ける技術であり、露光回数に比例して装置の稼働時間と電力消費が増大する。例えば、28ナノ世代のロジック半導体を製造する場合、DUV(深紫外線)露光工程だけでEUVを用いた10ナノ世代に比べて約2.5倍の電力を消費するという業界推計もある。つまり、中国の半導体産業は、米国の規制を迂回するために、物理的にエネルギー効率の低い製造方法を選択せざるを得ない状況に追い込まれているのだ。

日本勢に商機、省エネ型装置への需要

中国の電力事情は、日本の半導体製造装置・材料メーカーにとって新たな事業機会を生み出している。特に注目されるのが、電力消費が大きいエッチング(回路溝掘削)や成膜工程向けの省エネルギー型装置だ。東京エレクトロンは、プラズマエッチング装置「Tactras」シリーズで、チャンバー内のガス流量や圧力を精密に制御し、従来比で最大20%の消費電力削減を実現した製品を投入している。また、SCREENホールディングスは、ウエハー洗浄装置で薬液の再利用率を高め、純水製造や廃液処理にかかる電力を削減する技術を持つ。中国ファウンドリーは、生産能力の拡大と並行して運転費用(OPEX)の抑制が経営課題となっており、初期投資(CAPEX)が多少高くとも、長期的に電力費用を削減できる日本製装置への関心が高い。国際半導体製造装置材料協会(SEMI)が2024年4月に発表した統計では、2023年の中国向け半導体製造装置の販売額は前年比29%増の366億ドルと、世界最大の市場であり続けている。このうち、日本製装置は全体の約3割を占めると見られ、省エネ性能が新たな差別化要因として浮上している。ただし、これらの装置も米国の輸出規制強化の対象となるリスクを常に抱えており、日本企業は慎重な事業展開を迫られる。

迫られる「グリーン洗浄」と技術自給の二者択一

中国政府が掲げる「双炭」目標と、半導体産業の現場で進行する電力消費の急増は、深刻な乖離を見せている。この矛盾を埋めるため、中国企業は再生可能エネルギーの導入を急ぐ。SMICは2023年のサステナビリティ報告書で、2025年までに再生可能エネルギーの使用比率を10%まで高める目標を掲げた。しかし、半導体工場は24時間365日、安定した電力供給が生命線であり、天候に左右される太陽光や風力発電への全面的な移行は非現実的だ。結果として、他地域で購入したグリーン電力証書で会計上の排出量を相殺する「オフセット」に頼らざるを得ない。これは実質的な排出削減にはつながらず、「グリーン洗浄(見せかけの環境配慮)」との批判を招く可能性がある。米中対立が激化する中、中国の半導体産業は、国家の威信をかけた技術自給率の向上と、国際社会から求められる環境負荷低減という、二つの相反する要求の板挟みになっている。AIによる最適化や再生可能エネルギー導入といった対策は、成熟工程拡大に伴う爆発的な電力需要の増加を吸収するには力不足であり、当面はエネルギー効率の悪い製造方法で生産を続けるという構造的なジレンマから抜け出せないでいる。

日本企業が直面する選択

中国の半導体産業が抱える電力問題は、日本の関連企業に複雑な問いを投げかける。短期的には、省エネルギー性能に優れた製造装置や高効率な材料の販売拡大という商機が広がる。東京エレクトロンやSCREENホールディングス、ディスコといった装置メーカーや、信越化学工業、SUMCOが供給する高品質ウエハーは、歩留まり向上を通じて間接的に電力効率の改善に寄与するため、中国市場での需要は底堅い。しかし、中長期的には地政学的なリスクが無視できないレベルで高まっている。米国政府は、中国の半導体技術の進展を阻止するため、規制の網を広げ続けている。現在は対象外である成熟工程向けの装置や材料も、将来的に輸出管理の対象となる可能性は否定できない。そうなれば、中国ビジネスへの依存度が高い日本企業は、深刻な打撃を受けることになる。また、中国が環境技術を名目に、日本の省エネ関連技術の移転を強く求めてくるシナリオも想定される。技術流出のリスクと、巨大市場での事業機会を天秤にかける難しい経営判断が、今後ますます日本の半導体関連企業の経営層に求められることになるだろう。中国の「脱炭素」という大義名分が、日本の技術基盤に対する新たな挑戦状となる可能性を、我々は注視する必要がある。