2026年から始まる中国の第15次五カ年計画は、半導体など先端技術の自給率向上を最重要課題に掲げる。とくに米国による輸出規制が及ばない28ナノメートル以上の成熟工程に資源を集中投下し、2027年末までに製造装置の国産化率50%達成を目指す。この動きは、中芯国際集成電路製造(SMIC)や長江存儲科技(YMTC)の増産を支える一方、東京エレクトロンなど日本の装置・材料メーカーには、供給網の分断か、技術流出の危険かの選択を迫る。

「双循環」政策の半導体分野への展開

中国が2026年から本格化させる第15次五カ年計画の経済運営は、「双循環」と呼ばれる基本方針が色濃く反映される。国内の生産・分配・消費を主軸とする「国内大循環」を強化し、国際市場との連携を従とするこの戦略は、米中技術摩擦の長期化を前提とした国家の生存戦略である。その核心に据えられるのが半導体の国内供給能力の確立だ。中国半導体行業協会(CSIA)の内部資料によれば、2025年時点で約24%に留まる国内自給率を、2030年までに40%以上に引き上げる野心的な目標が設定されたと見られる。この目標達成のため、2024年5月に約3440億元(約7兆円)規模で設立された国家集成電路産業投資基金の第三期分資金が、2026年以降、国内の半導体製造装置および材料メーカーへ重点的に投下される計画だ。投資先の7割以上が、上海微電子装備(SMEE)や北方華創科技集団(NAURA)といった国産装置企業や、素材開発を手がける新興企業に割り振られる。これは、先端プロセス開発の遅延を許容してでも、経済安全保障の基盤となるサプライチェーンを国内で完結させるという国家意思の表れに他ならない。

国産化の主戦場はなぜ28ナノなのか?

中国の半導体国産化戦略が、なぜ最先端ではなく28ナノメートル(nm)以上の成熟工程に焦点を合わせるのか。その背景には、米国の輸出規制という地政学的制約と、産業構造上の現実的な判断がある。米商務省産業安全保障局(BIS)が2022年10月に発動した規制は、14/16nm以下のロジック半導体、128層以上のNAND型フラッシュメモリー、18nm以下のDRAMの製造に必要な米国製装置・技術の対中輸出を事実上禁止した。これにより、極端紫外線(EUV)リソグラフィー装置を用いた先端プロセスの開発は頓挫した。一方で、自動車、産業機器、家電製品などに広く使われる半導体の多くは、28nm以上の成熟工程で製造される。世界の半導体受託製造市場において、28nm以上の工程が占める割合は、台湾積体電路製造(TSMC)の2025年度決算によれば、依然として売上高の約6割に達する。中国政府は、この巨大な既存市場を国産技術で代替することが、国内産業の基盤強化と雇用の安定に直結すると判断。技術的にも、EUVより一つ前の世代である液浸ArF(フッ化アルゴン)露光装置までは国産化の道筋が見えつつある。SMEE製の液浸ArFスキャナー「SSA/800-10W」は、複数回の露光を繰り返すマルチプル・パターニング技術を駆使することで、理論上は28nmノードの量産に対応可能とされる。先端競争からの脱落と引き換えに、巨大な国内需要を確実に掌握する「足元の現実」を固める戦略である。

国産装置メーカー、技術的到達点と限界

中国の半導体製造装置メーカーは、政府の強力な後押しを受けて急速に技術力を向上させているが、その到達点には依然として工程ごとの濃淡が見られる。最も進展が著しいのは、エッチング装置と成膜装置の分野だ。中微半導体設備(AMEC)と北方華創科技集団(NAURA)は、すでに5nmプロセスに対応可能なエッチング装置を開発済みで、SMICの先端ライン(規制前に導入したASML製装置を使用)で一部採用されている実績を持つ。米ラムリサーチや東京エレクトロンの同世代装置と比較しても、処理能力では8〜9割の水準に達したとの評価もある。しかし、半導体製造の心臓部であるリソグラフィー(露光)工程では、依然として大きな壁に直面している。上海微電子装備(SMEE)が開発した最上位機種「SSA/900」は、光源波長193nmのArF液浸スキャナーであり、解像度は28nmが限界だ。これは、オランダASMLの同世代機「NXT:2000i」が7nmプロセスまで対応可能なことと比較すると、技術的に3〜4世代の遅れを意味する。検査・測定装置分野でも、米KLAや日本のレーザーテックが世界市場を寡占するマスク欠陥検査装置などで決定的な差があり、歩留まり向上の大きな足かせとなっている。TrendForceが2025年12月に公表した調査では、中国の国産装置のみで構築した28nmラインの試算歩留まりは60%台に留まり、業界標準の95%超には程遠い。この「歩留まりの壁」が、国産化戦略の最大のアキレス腱である。

日本の基盤技術が握る「最後の関門」

中国が製造装置の国産化を推進する一方で、そのサプライチェーンの根底を支える素材や超精密部品の多くは、依然として日本企業への依存から抜け出せていない。半導体回路の原版となるフォトマスクの保護膜「ペリクル」や、回路パターンをウエハーに転写する感光材「フォトレジスト」は、その象徴的な存在だ。とくにEUVリソグラフィー用のフォトレジストは、JSR、信越化学工業、東京応化工業、富士フイルムの日本企業4社で世界市場の約9割を握る。中国勢も同分野の開発を急ぐが、感度や解像度、塗布均一性といった微細な品質要求を満たす製品の量産には至っていない。また、半導体の基板となるシリコンウエハーでも、信越化学工業とSUMCOの2社で世界シェアの約6割を占める。ウエハー表面の平坦度や純度は、半導体の歩留まりを直接左右する重要要素であり、中国の国産メーカーがこの品質に追いつくには少なくとも5〜7年の時間が必要と見られる。さらに、製造工程で不可欠な高純度のフッ化水素や、ウエハーを研磨するCMPスラリーといった特殊化学品でも、ステラケミファやフジミインコーポレーテッドといった日本企業が技術的な優位性を保つ。これら日本の基盤技術は、中国にとって国産化路線の「最後の関門」として残り続ける可能性が高い。

日本企業が直面する選択

中国の半導体国産化政策は、日本の関連企業に対し、事業戦略の根本的な見直しを迫っている。米国の輸出規制は、先端装置そのものだけでなく、それに使われる日本の部品や素材にも適用範囲が拡大する傾向にある。経済産業省が2023年7月に施行した外為法に基づく輸出管理の厳格化は、特定23品目を対象とし、事実上、中国の先端半導体開発を利する活動に釘を刺した。この結果、東京エレクトロンやSCREENホールディングスといった装置メーカーは、中国向け売上高の構成を成熟・後工程用にシフトせざるを得なくなっている。一方で、中国国内では巨大な「非米国技術」のサプライチェーンが形成されつつあり、これは新たな事業機会ともなり得る。中国の装置メーカーや半導体工場は、規制対象外の部品や材料の安定供給元として、日本企業に期待を寄せている。しかし、この流れに乗ることは、将来的な技術流出のリスクや、米国政府からの二次的制裁の可能性と隣り合わせだ。実際、中国企業との合弁事業や技術供与の見返りに市場参入を求める圧力は年々強まっている。日本の経営者は、目先の収益確保と、長期的な技術的優位性の維持、そして地政学的な立ち位置という三つの要素を天秤にかけ、極めて困難な判断を迫られている。どの道を選ぶにせよ、サプライチェーンの多元化や、代替困難な中核技術への更なる投資が、今後の事業継続の鍵となることは間違いない。