中国で、訪中外国人観光(インバウンド観光)の回復に向けた新たな動きが加速している。国家移民管理局によると、54カ国を対象とした最大240時間のトランジットビザ免除政策などを通じ、主に都市から国境地域まで全土で観光客の受け入れ体制を強化。利便性を高め、観光消費の拡大を狙う。
主に都市が牽引する観光誘致
上海や広州などの主に都市が、訪中観光の牽引役を担っている。両都市は国際空港とディズニーリゾートを結ぶ「ゴールデンルート」を整備し、観光客の誘致を強化。特に広州では、大規模見本市「広州交易会」の機会を捉え、展示会と無形文化遺産体験を組み合わせたツアーを企画し、東南アジアからのビジネス客の取り込みに成功している。
財政省と商務省は、免税店に関する新政策や出国時税還付の最低購入額引き下げを実施。これにより、訪中観光客の消費意欲を刺激する狙いだ。海南自由貿易港では、将来的な独立関税区としての運営開始後も、人の往来に関する現行のビザ免除措置は維持される方針が示されている。
国境地域に広がる新たな観光資源
これまでの主に都市中心の観光から、国境地域へと魅力が広がりつつある。東北地方では、ハルビン国際ファッションウィークなどのイベントが開催され、冬の雪と氷の景観が人気を集めている。ロシアと国境を接する黒竜江省の黒河出入境検査所では、ビザ免除で訪れるロシア人観光客が増加。「国境河川観光と民俗体験」を組み合わせたルートが好評だ。
「全域観光」へ向けたインフラ整備
中国政府は、国全体を一つの観光地と見なす「全域観光」構想を推進している。全国の出入境検査所ではトランジットビザ免除手続きがオンラインで一元化され、14の主にな空港・港湾では顔認証による「スマート通関」が導入された。これにより、一人当たりの平均通関時間は10秒に短縮され、都市部から地方まで、移動の利便性が飛躍的に向上している。
日本企業への示唆
中国の訪中客誘致策は、日本企業にとって二つの具体的な機会と一つのリスクをもたらす。まず、14の主要な空港・港湾で導入された顔認証による「スマート通関」と、それに伴う一人当たりの平均通関時間10秒への短縮は、日本の観光関連技術企業に新たなビジネスチャンスを提供する。中国のインフラ整備需要に対し、日本の高度な生体認証技術やシステム構築ノウハウは、空港・港湾の効率化だけでなく、将来的にはホテルや商業施設での応用も期待できる。
次に、広州交易会のような大規模見本市と無形文化遺産体験を組み合わせたツアーは、日本の地方自治体や観光事業者にとって、中国のビジネス客を誘致するヒントとなる。日本の地方が持つ独自の文化や産業を組み合わせた「ビジネス+α」のパッケージツアーを企画することで、中国の富裕層やビジネス層の取り込みを図れる。
一方で、中国が「全域観光」を掲げ、ハルビン国際ファッションウィークのようなイベントで地方の魅力を発信する戦略は、日本のインバウンド戦略に競合をもたらす。特に、これまで日本の特定のゴールデンルートに集中していた訪日客の分散を招く可能性があり、日本の地方観光地は、より一層独自の魅力と体験価値を磨き上げ、差別化を図る必要に迫られる。