電気自動車(EV)とエネルギー貯蔵システム(ESS)の基幹材料である炭酸リチウムの中国国内価格が、1トンあたり約430万円(約20万人民元)の大台を突破した。過去11ヶ月で230%以上という価格高騰はサプライチェーンの末端を直撃し、多くの蓄電池関連プロジェクトが採算割れで中断に追い込まれている。川下の電池メーカーがコスト増を吸収しきれず消耗戦に突入する一方、資源の垂直統合を進める巨大企業が優位性を固める構図が鮮明になってきた。

採算分岐点「約430万円」の壁、蓄電事業を直撃

「もはや見積もりが出せない。出しても有効期間は1日だ」。中国・深圳で開かれた電池産業展で、ある電池セルメーカーの担当者は窮状を訴えたと現地メディアは報じている。炭酸リチウム価格の高騰は、単なる投機的な動きに留まらず、実体経済、特に大規模な投資を必要とするESS市場の事業性を根底から揺るがしている。

業界調査機関の分析によると、ESSプロジェクトの事業採算性を測る内部収益率(IRR)は、リチウム価格に極めて敏感に反応する。中国の光大証券による試算では、炭酸リチウム価格が1トンあたり1万元上昇するごとに、電池セルのコストは1ワット時(Wh)あたり0.006元上昇する。価格が20万元に達すると、ESSのEPC(設計・調達・建設)コストは0.97元/Whまで跳ね上がり、IRRを大幅に悪化させる。これが、現場で「多くのESSプロジェクトが中断している」との声が上がる構造的な要因だ。

川下にしわ寄せ、体力勝負の消耗戦へ

サプライチェーンにおける価格転嫁の歪みが、事態をさらに深刻にしている。2025年半ば以降、炭酸リチウム価格が230%も暴騰したのに対し、蓄電池セルの価格上昇率は25〜35%程度に留まっている。このギャップは、川下に位置する電池セルメーカーが吸収せざるを得ないコスト圧力となっている。

電池セルのコスト構成において、正極材は約40%、電解液が10%超を占め、いずれも炭酸リチウムを主原料とする。原材料費の急騰は生産コストを直接的に押し上げるが、電池セル市場は価格競争が熾烈で、安易な値上げは即座にシェア喪失につながる。競合他社の動向をにらみ、各社は利益を削りながら耐える消耗戦を強いられているのが実情だ。

資源の垂直統合が明暗分ける、寡占化進む中国電池市場

この過酷な環境下で、業界の二極化が急速に進んでいる。車載電池で世界最大手のCATL寧徳時代新エネルギー科学技術)BYD比亜迪といった巨大企業は、その圧倒的な資本力と生産技術で優位性をさらに強めている。

これらの大手の強みは主に二つある。第一に、95%以上、時には99%に達するとされる高い歩留まり率だ。これにより、1セルあたりの製造コストを極限まで低減できる。第二に、資源の垂直統合戦略だ。例えばCATLは、江西省に保有するリチウム鉱山により、市場価格の半値以下である1トンあたり8.77万元という低コストで炭酸リチウムを調達できると報じられている。これにより、市場の価格変動に対する耐性を高めている。

一方、中小メーカーは上流の資源企業に対する価格交渉力が弱く、生産設備の差から歩留まりも低い。業界関係者の間では、リチウム価格が16万元/トンを超えた時点で、多くの小規模工場の採算は悪化したと見られている。結果として、CATLなど大手には2027年先までの受注が殺到する一方で、中小メーカーは淘汰の波に飲まれており、中国の電池産業における寡占化が一層加速する可能性が指摘される。

日本にとっての意味

中国で電気自動車(EV)とエネルギー貯蔵システム(ESS)の基幹材料である炭酸リチウムの価格が1トンあたり約430万円を突破したことは、日本のEV・ESS市場にも大きな影響を与える。特に、CATLBYDなどの大手企業が資源の垂直統合を進めることで、優位性を固めていることから、日本の自動車メーカーは中国市場での競争力強化に迫られる。例えば、トヨタ自動車や日産自動車は、CATLやBYDと提携して、低コストで高品質な電池を調達する必要性に直面する。

また、炭酸リチウム価格の高騰は、日本のESSプロジェクトの事業採算性にも影響を及ぼす。光大証券の試算によると、炭酸リチウム価格が1トンあたり1万元上昇するごとに、電池セルのコストは1ワット時(Wh)あたり0.006元上昇する。価格が20万元に達すると、ESSのEPC(設計・調達・建設)コストは0.97元/Whまで跳ね上がり、内部収益率(IRR)を大幅に悪化させる。これにより、日本のESSプロジェクトは採算性の見直しを迫られ、投資の見直しや計画の変更を余儀なくされる可能性がある。

さらに、中国の電池市場の寡占化は、日本のメーカーにとって大きなリスクとなる。CATLやBYDなどの大手企業が優位性を強めることで、日本のメーカーは中国市場でのシェア喪失に直面する。例えば、パナソニックホールディングスは、CATLやBYDとの競争に押され、中国市場でのシェアを失う可能性がある。日本のメーカーは、中国市場での競争力強化や新しいビジネスモデルの開発に迫られる。