米半導体大手クアルコムが事業の岐路に立っている。主力のスマートフォン向け半導体事業が市場低迷と最大顧客アップルの内製化という二重の課題に直面する一方、人工知能(AI)や自動車向け事業は成長している。2024年1〜3月期決算ではスマートフォン事業の不振が響き、多角化による収益構造の転換が急務となっている。
スマートフォン事業の不振とAIへの期待
クアルコムの現状は、既存事業の停滞と新分野への期待が交錯する。同社が発表した2024年1〜3月期決算は、売上高が前年同期比で減少し、特にスマートフォン事業の不振が際立つ内容だった。一方で、OpenAIとAI対応スマートフォン向けプロセッサーを共同開発するとの観測も浮上し、市場の関心を集めている。AIという新たな成長分野が、既存事業の減速を補う持続的な収益源となりうるかが問われる。
1〜3月期決算、多角化の成果と課題
2024年1〜3月期決算によると、売上高は前年同期比3%減の105億9900万ドル(約1兆6400億円)となった。部門別では、スマートフォン向け半導体の売上高が13%減の60億2400万ドルと大幅に落ち込んだ。対照的に、自動車向けは38%増、IoT(モノのインターネット)向けは9%増と力強い成長を示した。
これらの数字は多角化の成果が決算に表れ始めたことを示す。しかし、依然としてスマートフォン向けが半導体事業全体の3分の2、会社全体の売上高の半分以上を占めるため、自動車やIoTの成長だけでは落ち込みを補うには至っていない。
アップルの内製化が構造的リスクに
クアルコムにとって構造的な最大の脅威は、アップルによる通信用ベースバンドチップの内製化だ。同社は決算資料で、アップルが自社開発チップの使用を開始しており、将来的にその範囲が拡大することで「売上、業績、キャッシュフローに重大な悪影響が及ぶ」と明記した。
問題は出荷量の減少だけではない。アップル向け製品は利益率が比較的低いため、iPhoneがクアルコムの統合型チップを搭載する他のスマートフォン端末のシェアを奪う場合、クアルコム全体の収益性がさらに悪化するリスクがある。アップルの動きは、サムスン電子やシャオミといった他の大手メーカーの自社開発を加速させる可能性も指摘される。
AIとデータセンター向けが次世代の柱に
こうした逆風に対し、クアルコムも対策を講じている。安定収益源である技術ライセンス事業は1〜3月期に5%の増収を確保し、研究開発投資を支える。さらに、クリスティアーノ・アモン最高経営責任者(CEO)は決算説明会で、年内に大手クラウド事業者向けにデータセンター用チップの初期出荷を開始する見通しを明らかにした。
エッジAI、パーソナルAIデバイス、データセンター向けカスタムチップといった新領域が、スマートフォンに代わる次の収益の柱となるかが今後の焦点だ。AI事業を期待先行から具体的な収益へ転換できるかが、クアルコムの今後を左右する。
日本への影響と示唆
クアルコムの主力事業における課題は、日本企業にとって半導体サプライチェーンの再編と新たな事業機会を促す。同社のスマートフォン向け半導体売上が13%減と大幅に落ち込む一方、自動車向けが38%増、IoT向けが9%増と成長した事実は、日本の自動車部品メーカーや産業機器メーカーが、クアルコムとの連携を深化させる好機を示唆する。例えば、デンソーやアイシン精機のような車載システム大手は、クアルコムの車載向け半導体技術を活用し、自動運転やコネクテッドカー分野での競争優位性を確立できる可能性がある。
また、アップルによるベースバンドチップ内製化の動きは、日本の電子部品メーカーにも影響を及ぼす。村田製作所やTDKといった企業は、アップル向け部品供給においてリスク分散を迫られる一方、クアルコムが注力するデータセンター向けチップやエッジAIデバイス向けの新たな需要を取り込む機会が生まれる。クアルコムが年内に大手クラウド事業者向けにデータセンター用チップの初期出荷を開始する見通しは、日本企業がAIインフラ関連の部品やソリューション提供で参入する余地を広げる。この構造変化は、単なる部品供給に留まらず、AI技術を活用した新たなサービス開発やエコシステム構築への参画を促すだろう。