HBM市場でシェア57%、営業利益率72%を誇るSKハイニックスの強みと、垂直統合で追うサムスン、米マイクロンの巨額投資がもたらす地政学的リスクを分析。ディスコや東京エレクトロンなど日本企業の装置・材料の役割も解説。
人工知能(AI)向け高帯域幅メモリ(HBM)市場で、韓国のSKハイニックスが圧倒的な存在感を示している。2025年第3四半期の売上高基準で世界シェア57%を握り、2026年第1四半期の営業利益率は72%という驚異的な水準に達した。しかし、その華々しい数字の足元では、供給網の構造的変化が始まりつつある。競合のサムスン電子は前工程から後工程までを同一敷地内で完結させる垂直統合モデルを構築し、米マイクロン・テクノロジーは巨額の設備投資で追撃する。主導権を巡る競争の激化は、半導体製造装置や先端材料を供給する日本産業界の投資判断や規制対応にも大きな影響を及ぼしつつある。
首位を揺るがす競合の垂直統合体制
SKハイニックスの業績は現在、AI向け画像処理半導体(GPU)の需要爆発に伴い急成長を遂げている。2026年第1四半期の単四半期営業利益は37.6兆ウォンに達し、2025年通年の営業利益(47.2兆ウォン)の約8割をわずか3カ月で稼ぎ出した。米エヌビディアの次世代AIプラットフォーム向け供給で高いシェアを維持していることが主因だ。市場調査会社トレンドフォースのデータによると、同社の同プラットフォームにおけるシェアは約70%に達している。
しかし、同社の製造モデルには構造的な不確実性が存在する。SKハイニックスはHBMの半導体チップ(ダイ)を製造した後、最終的な製品化である先端パッケージング工程を台湾積体電路製造(TSMC)などの外部企業に依存している。これに対し、世界最大のDRAMメーカーであるサムスン電子は、韓国の平澤工場の同一敷地内でメモリ製造からロジック半導体の受託生産、さらには先端パッケージングまでを一気通貫で完結させる「一貫生産モデル」を整えた。外注に伴う時間的ロスや歩留まり損失を排除する戦略であり、次世代規格である「HBM4」での逆転を狙って2026年2月から先行出荷を開始している。SKハイニックスのように製造工程が複数の企業や国をまたぐ構造は、一社で完結する垂直統合型に比べて、物流コストや工程間の品質管理において長期的な不利を被るリスクがある。
利益率72%を支える市況の構図
2026年第1四半期にSKハイニックスが記録した72%という営業利益率は、メモリ産業の歴史において極めて異例の数値だ。通常のDRAM市場の平均利益率は15〜25%程度で推移してきたが、現在のHBMの平均販売価格は通常の汎用メモリ「DDR5」の5〜8倍に高騰している。さらに、主要各社が生産能力をHBMにシフトした結果、従来の汎用DRAMの供給が絞られ、市況全体が押し上げられるという二重の恩恵を受けている。
しかし、この高収益体質は構造的なものではなく、需給逼迫による循環的な性質が強い。経済産業省が過去に公表した通商白書などでも指摘されている通り、メモリ市場は「好況と不況」の激しい不連続のサイクルを繰り返してきた。2018年から2019年にかけての過剰投資の後、DRAM価格が急落し、2019年第4四半期にSKハイニックスの利益率がほぼゼロに落ち込んだ歴史がある。現在、同社は財務圧力を軽減するために特別目的会社(SPC)を活用した表外調達を進めつつ、京畿道竜仁市のクラスターに31兆ウォン、M15X工場拡張に20兆ウォンを超える計50兆ウォン以上の巨額投資を継続している。2027年以降にAI需要が鈍化すれば、これらの一大投資による固定費負担や減価償却費が業績の急減速を招くリスクを内包している。また、営業利益の10%を従業員賞与の原資に充てる労使契約を結んでいる同社にとって、利益の減少は人材引き抜き防止コストとの間でジレンマを生むことになる。
積層技術の限界と日本企業の装置
HBMの性能進化は、半導体チップを垂直に積層し、TSV(シリコン貫通電極)と呼ばれる微細な穴で接続する技術にかかっている。次世代のHBM4では、積層数が12層から16層へと増加し、回路の制御はさらに困難を極める。12層積層において各層の単体歩留まりが90%の場合、最終的な複合歩留まりは理論上約28%まで低下するため、製造ラインの微細加工精度がそのまま企業の命運を握る。SKハイニックスの12層製品を巡っては、一部のアナリストから熱管理や品質維持に関する懸念が指摘されており、経営陣は「制御可能」と説明するものの、技術的限界が近づいていることは明白だ。HBM3E単体で10ワットを超える消費電力は、積層化によって中間層の熱が逃げにくくなり、システム全体の放熱設計に深刻な負荷を与える。
この高精度な積層プロセスにおいて、日本の半導体製造装置および先端材料メーカーの基盤技術が不可欠な役割を果たしている。超薄型化されたチップの切断や研削加工の工程では、ディスコが擁する高精度グラインダーやダイサーが世界市場で圧倒的なシェアを占めており、同社の加工技術なしには量産自体が成立しない。また、高温環境下での結晶成長や不純物注入ステップでは、東京エレクトロンのエピタキシャル成長装置や高温イオン注入装置が製造ラインの根幹を支えている。さらに、基板となるシリコンウエハーは信越化学工業やSUMCOが世界的な供給責任を担い、微細パターンの形成にはJSRや東京応化工業の最先端フォトレジストが不可欠だ。最終製品のシェアに目を奪われがちだが、実際の供給網はこれら日本企業が握る基盤技術レイヤーによって支えられている。
エヌビディア依存に伴う需給リスク
米マイクロン・テクノロジーの動向も無視できない。マイクロンは最新の財務報告(10-Q)において、2026年の設備投資計画を250億米ドル超に上方修正し、ニューヨーク州やアイダホ州に新工場を建設している。地政学的な供給途絶リスクを懸念する米国の顧客に対し、「米国内での一貫供給」を最大の武器としてアプローチを強めており、2025年第2四半期時点でHBM出荷シェアは21%と、サムスン(17%)を抜いて2位に浮上した。朝鮮半島の有事リスクや、韓国内での原子力発電所の老朽化に伴う電力供給不安が指摘される中、マイクロンの地理的分散戦略は顧客にとって強力な選択肢となっている。
主要顧客であるエヌビディアは、単一サプライヤーへの過度な依存を避けるため、調達先の多様化を明確に進めている。米モルガン・スタンレーの予測によれば、現在SKハイニックスが握るエヌビディア向け供給シェアは、長期的に50〜60%の水準まで低下する見通しだ。顧客側が代替サプライヤーとしてのサムスンやマイクロンを育成することは調達リスク管理の定石であり、シェアの低下はSKハイニックスの価格決定権の弱体化、ひいては利益率の大幅な圧縮に直結する。現在の株価(193万5000ウォン)は、直近の極端な高収益が今後も持続するという楽観的な前提を織り込んでいるが、調達比率の平準化が進めば、評価の前提そのものが覆る可能性がある。2028年以降にTSVを不要とするハイブリッドボンディング技術が主流化すれば、これまでの量産経験の優位性がリセットされるリスクもある。
日本企業が直面する選択
メモリ主要三社がHBM4の量産と設備投資を競う中、日本の装置・材料産業は「需要のボラティリティ(変動性)」と「地政学リスク」の双方に対応する投資判断を迫られている。足元の巨額発注に応じるための生産能力増強は大きな機会である一方、2027年以降に想定されるシリコンサイクルの反転に備えた投資抑制のクッションの確保が必要だ。また、米国や韓国が経済安全保障の観点から国内生産や特定地域でのサプライチェーン囲い込みを強める中、日本のサプライヤーも現地サポート体制の強化や知的財産の管理といった規制対応が不可欠となる。エヌビディアをはじめとする特定顧客の需要予測に依存せず、パワー半導体向けなど他用途への技術転用が可能な汎用性の高い先端材料の開発を進めることが、中長期的なリスク分散の鍵となる。
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