トランプ前政権以降、米国で産業政策の大きな転換が見られる。かつての自由市場主義から、半導体や新エネルギー分野で国家が巨額の補助金を投じる「大きな政府」へと舵を切っており、その手法は「国家資本主義」的であると指摘されている。背景には、国家主導で技術覇権を目指す中国への強い対抗意識がある。
産業政策で「大きな政府」へ転換する米国
バイデン政権は、国内の半導体産業を支援する「CHIPS・科学法」や、電気自動車(EV)の普及を後押しする「インフレ抑制法(IRA)」を相次いで成立させた。これらの法律は、特定の戦略分野における国内生産や研究開発に対し、総額数千億ドル規模の補助金や税制優遇を投じるものだ。
これは、市場の自由に委ねることを基本的にとしてきた従来の米国の経済政策からの明確な転換点となる。政府が積極的に市場に介入し、特定の産業を育成・保護する手法は、経済安全保障を名目とした国家主導の産業政策であり、一部では「国家資本主義」への回帰とも評されている。
中国の国家主導モデルとの対立鮮明に
米国の政策転換の背景には、中国の存在が色濃く反映されている。中国は「社会主義市場経済」を掲げ、長年にわたり国家主導で産業を育成してきた。特にハイテク分野の国産化を目指す「中国製造2025」に代表される戦略は、西側諸国から長年警戒されてきた。
米国の近年の動きは、こうした中国の国家主導モデルに正面から対抗し、サプライチェーンから中国を排除(デカップリング)するとともに、国内の製造業基盤を再強化する狙いが明確だ。米中両国が国家の威信をかけて戦略産業の覇権を争う構図が、より鮮明になっている。
日本にとっての意味
米国の産業政策が「国家資本主義」的アプローチへ転換することは、日本企業にとって直接的な機会とリスクを生み出す。まず、CHIPS・科学法やインフレ抑制法(IRA)により、半導体やEV関連で総額数千億ドル規模の補助金が投じられることは、日本企業が米国市場で事業展開する上で新たな競争環境を意味する。例えば、トヨタ自動車やパナソニックのような企業は、米国での生産拠点の拡充やサプライチェーンの再構築において、これらの補助金を活用できる可能性がある。これにより、米国市場での競争優位性を確立し、新たな収益源を確保する機会が生まれる。
一方で、米国が国家主導で特定の産業を育成する姿勢は、日本国内の関連産業に負の影響をもたらすリスクも孕む。米国の補助金漬けの産業が競争力を高めることで、日本国内の半導体製造装置メーカーやEV部品サプライヤーが、米国市場だけでなくグローバル市場での競争において不利になる可能性がある。特に、米国が中国の「中国製造2025」に対抗し、サプライチェーンから中国を排除する動きを強める中で、日本企業は米中双方の産業政策の狭間で、サプライチェーンの再編と事業戦略の抜本的な見直しを迫られるだろう。これは、単なる市場機会の喪失だけでなく、既存のビジネスモデルの陳腐化を招く可能性もある。