中国のテクノロジー大手、シャオミ集団(シャオミ)は、同社初の電気自動車(EV)の高性能モデル「SU7 GT」が、ドイツのニュルブルクリンク北コースで市販SUVのラップタイム記録を更新したと発表した。この動きは、欧州連合(EU)が中国製EVへの追加関税を検討する中、「自動車の聖地」で技術力を証明することで、価格競争から性能競争へと土俵を転換する明確な戦略的意図がうかがえる。EV化で課題を抱える日本の自動車メーカーにとって、新たな競争軸を突きつけられた形だ。

「自動車の聖地」で達成された最速のによると号

シャオミの公式発表によると、「SU7 GT」はニュルブルクリンク北コース(全長20.832km)を7分34秒931で周回し、従来のSUVカテゴリー記録を更新した。自動車の性能を極限状態で試す場として世界的な権威を持つ同サーキットでの挑戦は、シャオミの車両開発能力を誇示する絶好の機会となった。ステアリングを握ったチーフテストドライバーの任周燦氏は、同サーキットで公式にラップタイム認定を受けた初の中国人ドライバーとなり、中国の自動車産業全体にとっても象徴的な出来事となった。

シャオミの創業者である雷軍最高経営責任者(CEO)は、「SU7 GTは、その細部に至るまで純粋なグランドツアラーとして設計されている」と述べ、性能への自信を示した。この記録達成は、5月21日に予定される同モデルの正式な市場投入を前に、市場の期待感を高める狙いがあると見られる。

EU関税網を前に「性能」で挑む市場戦略

シャオミがニュルブルクリンクでの記録挑戦を選んだ背景には、巧妙な市場戦略が存在する。第一に、高性能車を尊ぶドイツ市場をはじめとする欧州の消費者に対する直接的なメッセージだ。ポルシェやBMWといった地元ブランドが鎬を削る舞台で最速のによると号を得ることは、「安価な中国製EV」という固定観念を覆し、技術力で伍する存在であることを訴求する上で効果的である。

第二に、EUが中国政府の補助金を背景としたEVに対し追加関税を課す可能性が高まる中、シャオミは価格以外の付加価値、すなわち「性能」という普遍的な価値基準で勝負する姿勢を明確にした。関税によって価格優位性が削がれたとしても、ブランド力と技術力で乗り越えようという意図が透けて見える。これは、かつてNIO(ニオ)汽車(NIO)など他の中国新興EVメーカーが欧州市場で用いた戦略の延長線上にあり、欧州攻略の一つの定石となりつつあることを示唆している。

スマートフォン開発で培った技術基盤

この記録は、シャオミがスマートフォン開発で培った技術力とサプライチェーン管理能力を自動車分野に応用した結果と言える。SU7 GTの具体的なスペックは正式発表前だが、業界の観測筋によれば、800V高電圧プラットフォームを基盤とし、合計出力が1000馬力に迫るデュアルモーターを搭載しているとみられる。バッテリーは世界最大手の寧徳時代新エネルギー科学技術(CATL)製高性能セルを採用し、エネルギー密度と放熱性能を両立させている模様だ。

さらに、シャオミが自社開発したシャシー制御システムが、サーキットの過酷な環境下で車両の挙動を最適化したと考えられる。比較対象として、従来のSUV記録維持者であるポルシェ・カイエン・ターボGT(7分38秒925)やアウディ・RS Q8(7分42秒253)を上回るタイムは、電動化技術だけでなく、空力性能やサスペンション技術においても世界トップレベルに達したことを示している。

まとめ:日本への示唆

シャオミの「SU7 GT」がニュルブルクリンクで「7分34秒931」という市販SUV最速記録を樹立したことは、日本の自動車産業、特にEVシフトを進めるトヨタ自動車や日産自動車に直接的な影響を与える。これまで中国製EVは価格競争力で日本勢を脅かしてきたが、シャオミは「性能」という新たな競争軸を打ち出した。これは、ポルシェやBMWといった欧州の高級ブランドが鎬を削る「自動車の聖地」で、技術力とブランド力を確立しようとする明確な意図の表れだ。

この動きは、日本の自動車メーカーがEV開発において、単なる航続距離や充電速度だけでなく、シャオミが謳う「純粋なグランドツアラー」としての走行性能やドライビングプレジャーといった付加価値の追求を迫られることを意味する。特に、トヨタがレクサスブランドで展開するEVや、日産が「アリア」で目指すプレミアムEV市場において、シャオミの高性能モデルは新たな競合となる。

さらに、シャオミがスマートフォン開発で培った「800V高電圧プラットフォーム」や「自社開発シャシー制御システム」といったテクノロジーを自動車に転用している点は、日本の自動車メーカーにとって脅威だ。これは、既存の自動車メーカーが持つ伝統的な開発手法に加え、IT企業由来のソフトウェア開発力やサプライチェーン管理能力がEV競争の鍵となることを示唆している。日本企業は、単にEVを開発するだけでなく、シャオミのような異業種からの参入者が持つ技術融合のスピードと質に対し、どのように差別化を図るかという課題に直面するだろう。