次世代通信規格6Gの周波数帯を巡り、中国ファーウェイが6.425-7.125GHz帯(U6GHz)の国際標準化を主導している。既存5G帯の1.5倍超の帯域幅を確保し、ミリ波帯の弱点を補うこの新領域は、米国の技術規制下で独自の生態系構築を目指す同社の戦略の核となる。通信インフラ市場でNokiaやEricssonとの競争が激化するなか、日本の関連企業にも新たな事業機会と地政学的な選択が迫られる。
ファーウェイが狙う「中周波数帯の空白」
米国の輸出規制強化で最先端半導体の調達が困難になるなか、ファーウェイは次世代通信規格6Gの主導権確保に向け、周波数帯の国際標準化に活路を見出そうとしている。同社が戦略の中核に据えるのが「U6GHz」と呼ばれる6.425GHzから7.125GHzまでの700MHz幅の周波数帯だ。この帯域は、5Gで主に利用される6GHz以下の「Sub-6」と、28GHz帯などの「ミリ波」の中間に位置する。ファーウェイはこの領域を、通信容量、通信範囲、設備投資費用の三要素で均衡が取れた「ゴールデンバンド」と位置づけ、国際的な合意形成を強力に推進している。2023年12月に開催された国際電気通信連合(ITU)の世界無線通信会議(WRC-23)では、このU6GHz帯が6Gを含む将来のIMT(国際移動通信)の候補帯域として議題に上がり、2027年の次回会合(WRC-27)で最終決定を目指すことが確認された。これはファーウェイと中国政府が一体となったロビー活動の成果と見られる。欧州郵電主管庁会議(CEPT)が2023年7月に公表した報告書では、同帯域のIMT利用に慎重な姿勢を示しており、米国も同調する構えだが、中国の支援を受ける新興国を中心にU6GHz支持が広がれば、勢力図が覆る可能性を秘める。ファーウェイは、半導体のような物理的な供給網の締め付けが及びにくい規格策定の段階で優位を築き、将来の市場を先取りする構えだ。
なぜU6GHzは6Gの「最適解」とされるのか?
ファーウェイがU6GHz帯を強く推す背景には、明確な技術的優位性がある。第一に、700MHzという連続した広大な帯域幅を確保できる点だ。これは現在5Gで利用されている主要なSub-6帯域である3.7GHz帯や4.5GHz帯の帯域幅が通常100MHz〜400MHz程度であることと比較すると、1.5倍から7倍の広さにあたる。帯域幅は通信速度と容量に直結するため、U6GHzは超高精細映像のストリーミングや大規模なIoT(モノのインターネット)接続といった6Gが想定する用途に不可欠な基盤を提供する。第二に、電波の物理的特性が挙げられる。U6GHz帯の電波は、ミリ波に比べて直進性が緩やかで障害物による減衰が少ない。そのため、ミリ波のように多数の基地局を稠密に設置する必要がなく、Sub-6に近い感覚で通信網を構築できる。これにより通信事業者は設備投資を抑制しやすくなる。GSMA(GSM協会)の2024年2月の分析によれば、U6GHz帯を利用した場合、ミリ波単独の展開に比べ、都市部でのカバレッジ構築費用を最大40%削減できる可能性があるという。一方で、Wi-Fi規格「Wi-Fi 6E/7」も同じ6GHz帯を利用するため、電波干渉の問題が最大の課題となる。ファーウェイは、基地局側で高度な干渉調整技術を導入することで携帯通信とWi-Fiの共存は可能と主張するが、技術的な実証と国際的な運用ルールの策定が今後の焦点となる。
米国規制下で進むファーウェイの独自開発
ファーウェイは国際標準化の議論と並行し、U6GHzに対応する通信装置の製品開発を急いでいる。2024年2月にスペイン・バルセロナで開催されたMWC(モバイル・ワールド・コングレス)では、U6GHz帯に対応した基地局用のアンテナ一体型無線機「AAU(Active Antenna Unit)」の試作品を公開した。同社によれば、この装置は最大800MHzの帯域幅を単体で処理可能で、既存の5G用AAUと比較して消費電力を約30%削減できる設計だという。これは、米国の規制によりアクセスが制限されている最先端の半導体ではなく、自社傘下のハイシリコンが設計し、中国国内の受託製造企業(ファウンドリー)が製造した14ナノメートル世代の半導体などを活用して実現したと見られる。最先端プロセスに依存しない設計思想は、米国の制裁下で生き残るための同社のしたたかな戦略を象徴する。ファーウェイの2023年12月期決算報告書によれば、研究開発費は1647億人民元(約3兆5000億円)に達し、売上高比で23.4%と依然として高水準を維持している。この潤沢な資金が、米国の技術が及ばない領域での先行開発を支えている。国際標準が固まる前に製品を市場に投入し、事実上の標準(デファクトスタンダード)を確立する狙いは明らかだ。
Nokia・Ericsson連合の対抗戦略
ファーウェイのU6GHz攻勢に対し、通信インフラ市場で競合する欧州のNokiaとEricssonは、異なる戦略で対抗する。両社はU6GHzの可能性を否定しないものの、より高い周波数帯であるミリ波や、さらにその先の「センチメートル波」(10-20GHz帯)、そして100GHzを超える「テラヘルツ波」の研究開発に重点を置く姿勢を見せている。これは、日米欧の通信事業者が既に5Gでミリ波への投資を進めていることや、Wi-Fiとの干渉問題が複雑なU6GHzよりも、未開拓で広大な帯域を確保できる高周波数帯に6Gの革新性を見出しているためだ。Ericssonは2023年11月の投資家向け説明会で、6G時代の通信容量の需要を満たすには10GHz以上の周波数帯の活用が不可欠との見解を表明した。また、Nokia傘下のベル研究所は、テラヘルツ波を用いた毎秒100ギガビット(Gbps)を超える無線伝送実験に成功している。しかし、これらの高周波数帯は電波の到達距離が極端に短く、実用化には技術的課題が多い。日米欧連合は、時間をかけて高周波数帯の技術を成熟させる正攻法を採るが、その間にファーウェイがU6GHzで新興国市場を中心に巨大な経済圏を構築した場合、6G時代も5G同様に市場の分断が続く可能性がある。米国の調査会社Dell'Oro Groupの2024年3月の調査では、2023年の世界の通信基地局市場シェア(金額ベース)でファーウェイは依然として30%超を維持し、首位の座を守っている。この牙城を崩すには、技術的優位性だけでなく、政治的な連携と市場戦略が不可欠となる。
日本企業が直面する選択
ファーウェイが主導するU6GHzが6Gの主要周波数帯の一つとして国際的に認知された場合、日本の通信産業は複雑な選択を迫られる。NTTドコモやKDDI、ソフトバンクといった通信事業者は、設備投資計画の見直しを迫られる可能性がある。これまで日米連携の枠組みのもと、ミリ波技術への投資を優先してきたが、U6GHzが世界的な主流となれば、対応する基地局や端末の調達が必要になる。その際、先行するファーウェイ製品を導入するか、あるいはNokiaやEricsson、国内のNECや富士通といったベンダーが対応製品を開発するのを待つか、という経営判断が求められる。より深刻な影響を受けるのは、通信機器に不可欠な電子部品を供給する日本の部材メーカーだ。U6GHz帯で要求される性能を満たすフィルターやパワーアンプ、低損失基板などの高周波部品は、村田製作所、TDK、太陽誘電といった日本企業が世界的に高い技術力とシェアを握る領域である。ファーウェイがU6GHzの生態系を構築すれば、これらの企業には巨大な商機が生まれる。しかし、その一方で、米国のエンティティリストに掲載されているファーウェイへの部品供給は、米国の輸出管理規則(EAR)に抵触するリスクを伴う。2019年の韓国向け半導体材料の輸出管理厳格化や、近年の対中半導体製造装置の規制強化に見られるように、基幹部品は地政学的な駆け引きの道具となりやすい。日本政府と企業は、経済安全保障の観点から、技術的優位性を維持しつつ、どの市場で誰と連携するのか、極めて慎重な舵取りを要求されることになる。
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