中国のライブコマースは、2025年に取引額が5兆元を超えた。ここで単位に注意がいる。5兆「円」ではなく5兆「元」であり、日本円に換算すればおよそ100兆円という桁だ。新華社と経済日報が2026年3月に伝えた「2025年、ライブコマースのGMVは5兆元を突破」という報道を円建てで読み違えると、実額の20分の1に矮小化してしまう。本稿は、この規模を正しく解いたうえで、爆発的成長が止まり、規制と「棚型」への揺り戻しが同時に進む現在地を、実データで追う。
5兆元、日本円なら約100兆円という規模
年ごとの取引額(GMV)を並べると、この市場の来し方がよく見える。網経社(電数宝)の集計では、2017年の196億元から、2019年に4,438億元、2021年に2兆3,615億元、2023年に4兆9,168億元、2024年に5兆3,256億元へと拡大した。2025年は5兆元超で、白書系の見込みは5.6兆元前後。人民元建てで見れば、2019年から2024年までのおよそ12倍という拡大も、2024年に電子商取引の増加分の80%を占めたという記述も、いずれもそのまま整合する。
ただし絶対額には幅がある。網経社や星図データの系統は5兆元規模を示す一方、艾媒諮詢はより狭い定義で2025年を約2.1兆元と推計する。5兆元は返品や重複を含む取引総額に近く、実売に寄せると数字は下がる。調査機関により2.1兆〜5.3兆元の幅がある点は、割り引いて読む必要がある。それでも、これが日本円で数十兆円から100兆円という桁の市場であることは動かない。オンライン小売全体に占める比率(浸透率)はおよそ3分の1、利用者は6億人を超えた。
爆発的成長は、すでに終わっている
規模の大きさとは裏腹に、勢いは明確に失われている。前年比の成長率は、2018年の+589%を頂点に、2019年+228%、2021年+84%、2023年+41%と段を下り、2024年にはついに+8.3%まで落ちた。3桁成長の時代は終わり、1桁成長が定着しつつある。利用者1人あたりの年間消費額も、2024年に8,589元と前年からわずかに減少へ転じた。人が増えても、1人が使う額が伸びない。これは市場が飽和の初期に入った兆候だ。今後の成長率を業界は+8%から+18%の間で見ているが、いずれにせよ、かつての倍々ゲームには戻らない。
売り手の地図 — プラットフォームと、極端な配信者集中
市場を牽引してきたのは、Douyin(抖音)、Kuaishou(快手)、タオバオライブといった、動画とECを融合させたプラットフォームだ。DouyinのEC取引額は2024年に約3.5兆元(棚型を含む)で最大手、次いでタオバオライブ、Kuaishouが続く。ただし各社の「ライブ配信のみ」の厳密な内訳は非公開で、順位以上の精度では語れない。
この市場のいびつさは、配信者の集中に表れる。艾媒諮詢の推計では、上位2.16%の配信者が売上のおよそ90%を握る。裏返せば、大多数の中小配信者はほとんど稼げない。かつて市場を象徴したトップ配信者たちも失速している。脱税で13.4億元を追徴された配信者Viya(薇娅)の一件以降、税務の締め付けが強まり、人気配信者の一部は品質問題で長期休止に追い込まれた。「特定の超級配信者がいなければ売れない」という時代から、「特定の配信者に頼るほどリスクが高い」という時代へと、風向きが変わった。
「棚型」への回帰と、ブランド自社配信の逆転
ライブ配信一辺倒からの揺り戻しも起きている。検索して買う従来型の「棚型」ECへ重心を戻す動きだ。Douyinは内容(ライブ)から棚型への転換を進め、大型商戦では店舗の自社配信が成約の半分を占めるようになった。タオバオライブも、著名配信者への依存を下げ、ブランドが自ら配信する比率を高めている。業界推計では、2026年1〜3月にブランド自社配信の取引額が著名配信者の配信を初めて上回り、5割を超えたとされる。配信を牽引していた頭部配信者の寄与は、ピーク期の約3割から約1割へ下がった。
もう一つの変化が、AI配信者(バーチャル配信者)の台頭だ。生身の配信者を24時間立たせる代わりに、AIが深夜帯を埋める。運用コストは生身の配信ルームの月15万〜25万元に対し、月数千元と桁違いに安い。百度のバーチャル配信は大型商戦で取引額を前年比+91%に伸ばした。市場の主役が、人の魅力から、商品力と価格、そして自動化へと移りつつある。
2026年2月施行の新ルール
拡大と混乱を受けて、規制が本格化した。国家市場監督管理総局と国家インターネット情報弁公室は、2025年12月18日に「ライブコマース監督管理弁法」(令第117号)を共同で公布し、2026年2月1日に施行した。全7章69条から成る、この分野で初めての専門的な規則だ。プラットフォーム、配信ルームの運営者、配信者、配信を支えるMCNの4者それぞれに責任を割り振り、身分情報の確認や取引記録の3年以上の保存を義務づけた。誇大な宣伝や、AIを使った虚偽情報の捏造を明確に禁じ(第34条)、AIが生成した人物で配信する場合はその旨を消費者に継続して表示するよう求めた(第37条)。
税務は、この弁法とは別の法令が担う。2025年6月に施行された国務院令第810号は、プラットフォーム企業に対し、四半期ごとに出店者や配信者の身分と収入を税務当局へ報告するよう義務づけた。配信者の収入が自動的に当局から見える仕組みが整い、事実上の実名・収入捕捉が制度化された。2025年には、2年連続で申告額をゼロとしていた大手配信者や、代理徴収を怠ったMCNが相次いで摘発されている。
2026年初めの現在地
2026年の幕開けは、なお活気を保っている。Douyinは春節商戦で全域の一日あたり平均取引額を前年同期比+56%に伸ばしたと自社発表した。ただし、これは各社発表ベースの数字で、政府の公式統計ではない点は留保しておく。消費者の側では、理性化が進んでいる。ある調査では、購入を左右する要素として「商品の特徴」や「価格」の影響力が増し、逆に「配信者の推薦」や「有名人の起用」の影響力は明確に下がった。苦情も多い。ある苦情サイトでは2025年の1〜8月だけでライブEC関連の相談が約13.5万件に上り、その半分近くが特定の大手プラットフォームに集中した。
規模は100兆円の桁へ、しかし成長は一桁台へ。中国のライブコマースは、量を追う段階から、質と信頼、そしてルールを整える段階へと移りつつある。次の成長曲線を描けるかは、この転換をどこまで着実に進められるかにかかっている。
本記事は新華社・経済日報の報道、網経社・艾媒諮詢などの業界データ、国家市場監督管理総局・国家税務総局の公表資料をもとに再構成した。市場規模や成長率、2026年の各数値には業界推計を含み、政府の一次統計とは定義や集計主体が異なる場合がある。
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