CoWoSとCoPoSの本当の違いは「円か角か」ではなく配線密度にある。シリコン0.4µm対樹脂2µm、置き換えでなく密度と面積経済の分業、450mm頓挫や液晶世代と同じ系譜まで構造で読み解く。
半導体の先端パッケージングを語る記事は、たいてい「丸いウエハーから角いパネルへ」で締めくくる。CoWoSとCoPoSの違いを、形の違いとして説明する。だが、それは見えている表層にすぎない。本当の違いは、もっと地味で、もっと決定的な一点――配線をどこまで細くできるかにある。シリコンの上では線の幅を0.4マイクロメートルまで詰められるが、樹脂の上では2マイクロメートル、約5倍も太くなる(All About Circuits)。この一本の軸が、CoWoSの三つの変種の序列も、CoWoSとCoPoSが「置き換え」でなく「分業」になる理由も、すべて説明する。そして、この基板を大きくする動き自体は、シリコンウエハーの大口径化や液晶のマザーガラス世代と同じ、半世紀くりかえされてきた競争の最新章でもある。本稿は、その三層――技術・分業・歴史――を順にほどく。
まず、CoWoSは何を積み上げているのか
CoWoS(Chip on Wafer on Substrate)は、複数のチップ――演算ロジックと広帯域メモリ(HBM)――を一枚のインターポーザの上に並べ、それを基板に載せる2.5Dの実装だ。要は「チップ同士を高密度に結ぶ中継基板」を挟む方式である。ただし、その中継基板を何で作るかで、CoWoSは三つの変種に分かれる。
シリコンインターポーザを使うのがCoWoS-S。一枚のシリコンに最微細の配線(線幅・間隔で約0.4µm)を引き、貫通電極(TSV)で上下をつなぐ。密度は最高だが、シリコンを大きくするほど歩留りが落ち、露光の面積上限(レチクル限界)にも当たる。H100やAMDのMI300がこの方式だ。
シリコンを使わず、樹脂の上の再配線層(RDL)で配線するのがCoWoS-R。安価で応力を緩衝しやすいが、配線は太くなる。そして両者の中間が、高密度が要る箇所だけシリコンの小片(LSIブリッジ)を埋め、残りを安価なRDLで賄うCoWoS-Lだ。NVIDIAのBlackwellはこの方式を採る。演算ダイ二つとHBM八スタックを載せるパッケージが、一枚のシリコンインターポーザのレチクル限界を超えるため、必要な場所だけブリッジで結ぶ。ただし材料ごとの熱膨張率の差で反りが出やすく、B200の歩留りの苦労はここに起因したと報じられた(3DInCites)。
本当の違いは「配線の細さ」
三変種の序列を貫いているのが、配線密度という一本の軸だ。シリコンの上では約0.4µm、樹脂の上では約2µm。シリコンから離れるほど線は太くなる。CoWoS-Sが密度で勝ち、CoWoS-Rが譲り、CoWoS-Lが「要所だけシリコン」で折り合う――すべてこの軸の上の位置取りで説明できる。
ではCoPoSはどこに立つのか。CoPoSは、チップ側のRDLと、ガラスをコアにした基板(貫通ガラスビアと樹脂のビルドアップ層で挟む構造)で配線を担う。ガラスは有機の樹脂基板より平坦で熱に強く、配線の細さも低ミクロンの域へ改善しつつある。だが、最先端のシリコンインターポーザが出す0.4µmの密度には、当面届かない。パネル級の実装は、ダイ間を結ぶ超微細な配線の作り込みに、露光の解像度という壁があるからだ(SemiEngineering)。この一点が、次に述べる「分業」の根拠になる。円か角かではなく、配線をどこまで細くできるか――そこで、どのチップがどちらへ行くかが決まる。
だから「置き換え」ではなく「分業」になる
見出しは「CoPoSがCoWoSを置き換える」と煽りがちだ。だが、TSMC自身の言い方は違う。「パネル級は、少なくとも初期段階では、今日のウエハー級(CoWoS)と同等の配線密度を提供しない」「最大級のAIチップで当面CoWoSを置き換えるわけではない」と明言している(Tom's Hardware)。ウエハー級のCoWoSは、一つのパッケージに最大58個の大型ダイまで拡張でき、レチクル14倍超への伸びしろを持つ。
つまり構図は、置換ではなく分業だ。密度の限界を攻める経路がCoWoS――最先端・最大級のAIチップ(Blackwellや、その次のRubin級)が残る。面積とコストの経済を攻める経路がCoPoS――大型だが、配線密度の要求が相対的に緩い品種が向かう。最先端AIチップの「中身の密度」は、当面ウエハー級でしか成立しない。これが、CoWoSが消えない理由そのものだ。
パネルが解くのは「面積の経済」
では、なぜわざわざパネルへ移るのか。答えは面積の経済にある。円い面に四角いチップを敷き詰めると、外周で切り捨てられる領域が増える。円形ウエハーの面積利用率はおよそ57%、角形パネルは87%から95%へ上がる(数値は基準やパネル寸法で幅があり、報道ベース)。パッケージが巨大化するほど、この差は効く。レチクル5.5倍級の次世代GPUだと、300mmウエハー一枚から取れるインターポーザは七個、場合によっては四個にまで細る(TrendForce)。角形の310mm角パネル、さらに先の510mm角・750×620mmへ移れば、有効面積は五倍を超える。
ただし、このコストの良い数字は前提に強く依存する。新しいパネル用の装置は円形ウエハー用を流用しにくく、装置はまだ選定の途中だ。TSMCは試作ラインで海外大手と台湾勢を並走させて評価しており、裏を返せば装置がまだ確立していない。コストが下がるのは量産と歩留りが立ち上がってからの話で、立ち上げの初期は、むしろ割高につく。
「大きくすれば得」の限界 ― 過去が教えること
基板を大きくして単位コストを下げる、というこの動きは、半導体の歴史で何度もくりかえされてきた。シリコンウエハーは100mmから150、200、300mmへと大口径化し、一枚から取れるチップ数を増やしてきた。だが、次の450mmは頓挫した。インテルやサムスン、TSMCらが組んだコンソーシアム(G450C)は2010年代後半に事実上止まる。工場が一兆円規模に膨らみ、専用装置の開発投資が回収できず、大面積の恩恵を受ける顧客が一握りしかいなかったからだ。「大きくすれば得」の限界効用が、設備・歩留り・需要の三重の制約で逆転した(The Register)。
液晶のマザーガラスでも、同じ競争が起きた。世代を上げるほど大きなパネルを効率よく取れるが、Gen10で世界初に踏み込んだシャープの堺工場は、リーマン・ショックと中国への生産移転が重なって敗れ、2024年に生産を止めた。一方、Gen10.5に賭けたBOEの合肥工場は、巨大なテレビ需要を追い風に、65インチ・75インチで世界首位へ駆け上がった(Omdia)。勝敗を分けたのは技術ではなく、需要とタイミングだった。面積効率を取りに行くたびに、反り、均一性、歩留り、設備投資という同じ壁が立ちはだかる――これが繰り返されてきたパターンである。
CoPoSが過去と決定的に違う三点
では、CoPoSも450mmや堺工場のように頓挫するのか。ここに、過去と決定的に違う三点がある。
- 第一に、これは直径の拡大ではなく、形状の転換だ。シリコンは円柱のインゴットから切るため、円形のまま450mmへ広げようとして壁に当たった。CoPoSはウエハーを大きくするのを諦め、土台を角形のパネルへ替える。実は、液晶が積み上げてきた角形ガラス基板の製造知見を、半導体の実装へ逆輸入する動きでもある。
- 第二に、これは前工程ではなく後工程の話だ。450mmや液晶は素子を作る基板そのものの大型化だったが、CoPoSは実装基板の大型化で、露光のレチクル限界を基板の形で迂回する。
- 第三に、需要の質が逆だ。450mmは需要不足で死んだが、CoPoSはAIと広帯域メモリという、明確で巨大な追い風に引かれて来る。技術が成熟したから来るのではなく、ウエハー級の経済が巨大パッケージで崩れ始めたから来る――必要に迫られた移行である。だからこそ、過去の頓挫とは逆の結末になりうる。
誇張と実態 ― 冷静に見るべき数字
期待が先行する分、数字は冷静に見たい。よく引かれる「試作歩留り九割」は、TSMCのCoPoSによる大型AIチップの量産歩留りではない。台湾のパッケージ会社が、電源管理ICのような小型チップ向けのパネル実装ラインで出した試作の値だ(TrendForce)。小型品の九割と、多数のダイとHBMを載せる大型AIパッケージの量産歩留りの間には、大きな隔たりがある。
ガラスのコア基板も、今すぐ前提にできるわけではない。マイクロクラックや銅の密着、貫通ビアの加工は難所で、量産は2030年前後とされる。CoPoSの初期は、まず扱いやすい有機材料のパネルで進み、ガラスは評価を続ける段階だ。反りは、むしろ大面積化で悪化する。CoPoSが解くのは実装の面積とコストであって、チップレットやHBMの必要性が消えるわけでもない。誇張された見出しと、TSMC自身が言う「補完」の間には、はっきりした距離がある。
CoWoSとCoPoSの違いを一行にすると、「密度を攻めるか、面積の経済を攻めるか」になる。円か角かは、その下にある配線密度という氷山の、見えている先端にすぎない。そして基板を大きくするこの動きは、ウエハーの大口径化や液晶の世代競争と同じ系譜に連なる、最新の一章だ。違うのは、直径でなく形を変え、前工程でなく後工程で、需要不足でなくAI需要に引かれて来る点にある。記者の観察では、評価すべきは「CoPoSがCoWoSを倒す」という勝敗の物語ではなく、なぜ二つが住み分け、なぜこの移行が今これだけの本気で進むのかという構造のほうだ。表層の「円から角へ」を一枚めくると、半導体産業がずっと向き合ってきた、大きくすることの利得と代償という古い問いが姿を見せる。