生成AIの足元を支えるのは、米粒より小さな日本製の部品だった。積層セラミックコンデンサー(MLCC)の材料・焼成・薄層化をたどり、設計ではなく「ばらつきを抑えて兆個つくる」村田の強さの源泉を読み解く。
生成AIの話題は、米国の巨大企業とGPU(画像処理半導体)に集まる。だが、その計算を一秒も止めずに回している部品の多くは、日本の地味なものづくりが生んでいる。AIサーバーの基板にびっしりと並ぶ、米粒より小さなコンデンサー――積層セラミックコンデンサー(MLCC)だ。GPUが一瞬で吸い込む電流の波を、電源電圧を揺らさずに受け止めている。基板一枚に数千個、ラック一台では数万個が載る。
世界シェアの最大手は京都の村田製作所で、金額ベースで約四割を握る(passive-components.eu、2024年)。
本稿がたどるのは、その強さがどこから来るのかという問いだ。答えは「性能のよい部品を設計できること」ではない。米粒より小さな部品を年に兆の単位でつくりながら、一個ごとの特性のばらつきを針の幅に抑え込む。この、地味で真似のしにくい量産の規律にこそ、日本の隠れた競争力がある。部品は小さくなるほど内部が精密になり、わずかな工程の狂いが性能と寿命を大きく揺らす。小ささは、寸法だけの問題ではない。
AIサーバーの電源を陰で支える、米粒より小さな部品
GPUや広帯域メモリー(HBM)は、処理の山と谷に合わせて消費電流がコンマ数秒で跳ねる。この急な電流の変動に電源電圧がついていけないと、波形が乱れ、演算が転ぶ。MLCC(https://www.chinapost.jp/news/ai-server-mlcc-japan-bottleneck-2026)は半導体の電源ピンとグラウンドのすぐ脇に置かれ、高い周波数の電流変動に対して抵抗の低い逃げ道をつくる。ためた電荷を瞬間的に吐き出し、電圧の沈み込みを埋める。抵抗成分(ESR)も寄生インダクタンス(ESL)も小さいこの部品が、電源分配ネットワーク(PDN)の最後の砦になる(passive-components.eu)。
搭載数は世代ごとに膨らんでいる。ある代表的な演算基板で一枚あたり約6,500個、次世代の設計では約12,000個へ倍増すると見積もられている(TrendForce、2025年)。ラック一台では四万から六万個に達し、ふつうのサーバーの十数倍になる(773 Group、2026年)。消費電力が上がるほど電源インピーダンスをさらに下げねばならず、置くコンデンサーの数も、一個あたりの容量も同時に増える。一方で基板の面積は限られるから、小さな外形に大きな容量を詰める方向へ圧力がかかる。いちばん品薄になるのが、この「小さくて容量が大きい」品種だ(773 Group)。AIの電力密度が上がるほど、この地味な部品の重みは静かに増す。
回路図のコンデンサー記号ひとつに、数百層が畳まれている
回路図ではコンデンサーの記号ひとつでも、MLCCの中身は、薄いセラミックの誘電体と金属電極を数百回くり返し積んだ層状の構造物だ。誘電体の主役はチタン酸バリウム(BaTiO₃)。キュリー点(約120〜130℃)を境に結晶のかたちが変わる強誘電体で、比誘電率は組成しだいで千から一万五千に届く。容量は、一層の電極面積と比誘電率に比例し、層の厚みに反比例して、それに積層数を掛けた値になる。だから容量を稼ぐ王道は、誘電体を薄くし、層をたくさん積むことに尽きる。高容量品では積層数が数百から千層を超える。
ここに至るまでに、材料から検査まで八つの工程が一個のチップに圧縮される。粉とバインダーを練ったスラリーを薄く流してシート(グリーンシート)をつくり、その上に電極ペーストを刷り、重ねて押し固め、切り分け、バインダーを焼き飛ばし、本焼きし、外部電極を付けてめっきし、最後に一個ずつ電気特性で選り分ける。どの工程にも固有の急所があり、前の段のわずかなばらつきが後の段で増幅される。
村田の強みは、どれか一工程の出来ではなく、八工程のつまみを互いに合わせ込んだまま、兆個の規模で特性のばらつきを抑え込める点にある(村田 技術情報)。記号は同じでも、裏の工程精度が、部品としての値打ちを分ける。
卑金属電極という綱渡り ― 酸素を抜いて焼き、また酸素で戻す
内部電極の金属が、この産業の歴史を一度書き換えた。かつての内部電極はパラジウムや銀パラジウム合金という貴金属だった。ところが2000年前後にパラジウム価格が急騰し、コストが合わなくなる。2000年にはパラジウムの平均価格が前年比で約九割上がり、パラジウムを使うMLCCの比率は前年の六割強から五割を割るところまで一気に落ちた(TTI、EE Times)。各社は内部電極をニッケル、外部電極を銅に切り替える。卑金属電極(BME)への転換である。
ところが、ニッケルは大気のなかで簡単に酸化する。金属のまま電極を残すには、酸素を抜いた還元雰囲気で焼くしかない。BMEの難しさの芯はここにある。焼成のときの酸素分圧を、おおよそ10⁻¹²から10⁻⁸気圧という細い帯のなかに収めねばならない。これより下げればニッケルの導体が暴れて焼き締まり、誘電体から剥がれて切れる。これより上げればニッケルが酸化する(米国特許11,915,876)。
しかも代償がある。酸素の薄い雰囲気では、チタン酸バリウムからも酸素が抜け、正の電荷を帯びた酸素空孔ができて半導体のように振る舞い、絶縁がにぶる。これを立て直すのが再酸化アニールだ。本焼きより低い温度(950℃以上)と、ほどよい酸素分圧で、ニッケルは酸化させず、誘電体だけに酸素を戻す(米国特許11,915,876)。再酸化だけでは空孔を消しきれないので、マグネシウムやマンガンといったアクセプターと、ジスプロシウム・イットリウム・ホルミウムといった希土類を加え、空孔のできかたと動きそのものを抑え込む。焼く雰囲気、戻す工程、効かせる組成――この三段構えで寿命を守っている(passive-components.eu)。日本の一般の報道がMLCCを「受動部品」とひとくくりにして踏み込まない領域が、この焼成と材料のすり合わせにある。
薄くするほど電界が高まる ― 小型化が背負う物理
容量を稼ごうと誘電体を薄くすると、物理が裏返る。電界は電圧を厚みで割った値(E = V/d)で決まるから、同じ電圧でも層が薄いほど電界は高くなる。加速試験では、150℃で1µmあたり8.5ボルトといった激しい電界が使われる(米国特許9,679,698)。電界が高いほど、あとで述べる酸素空孔の動きが速まり、絶縁が壊れるまでの余裕が削れていく。
薄層化は、結晶粒の設計と一体でしか進められない。誘電体の一層を結晶粒が何個でまたぐか――これが寿命を左右する。粒が少ないと、ひとつの粒界の欠陥や空孔のたまりが、層をまっすぐ貫いてしまう。高い信頼性をねらうなら、一層に最低でも五、六粒、たとえば25ボルト品なら十二粒ほどをまたがせる設計が報告されている(ScienceDirect、NASA)。だから層を薄くするたびに、粒の大きさを約100〜200ナノメートル、さらにその先へと比例して縮め、またぐ粒の数を保たねばならない。
高い比誘電率の品種(X7RやX5R)には、設計者を裏切る癖がある。直流電圧をかけると、実際に効く容量がごっそり減る。10µF・6.3ボルト級の品では、定格いっぱいの電圧で容量が三割五分から六割五分も落ち、3.3ボルトまで下げて使っても一割から三割減るという測定例がある(EPCI)。小型化・薄層化で一層にかかる電圧が上がるほど、この目減りはきつくなる。データシートの「10µF」を真に受けて基板を起こすと、実機で容量が足りずに泣く――回路設計の現場でよく知られた落とし穴だ。温度の安定を保つには、希土類を粒の表面に寄せ、強誘電性の芯(コア)とおとなしい殻(シェル)を一粒のなかに同居させる「コアシェル構造」を使い、両者の体積比で温度特性を作り込む(米国特許、Springer)。容量・温度・電圧・経時――これらを一度に成り立たせる組成の作り込みが、薄層化の裏側にある。
寿命を縮めるのは、酸素空孔のゆっくりした行進
MLCCの寿命は、たいてい絶縁抵抗の低下というかたちで現れ、最後はショートに至る。その物理の真ん中にいるのが、酸素空孔の電気泳動だ。アクセプターのドープや還元焼成でできた酸素空孔は正の電荷を帯び、直流の電界に押されて陰極の側へじわじわ動く。層が薄く電界が高いほど、その歩みは速い。空孔が粒界にたまると、ドナー準位からの電子放出(プール・フレンケル放出)や、電極界面でのトンネル伝導でリーク電流が増え、絶縁抵抗が落ちていく。やがて陰極のそばに劣化した領域が広がり、それが陽極へ向かって木の枝のように伸び、電気的な破壊に至る(NASA技術報告20150010733)。粒界や電極界面の高抵抗の層は、この空孔の行進をせき止める関所として働く。だから粒が細かく粒界が多いほど寿命は延びる。薄層化のときに微細な粒をそろえることが、容量だけでなく寿命のためでもある理由が、ここにある。
寿命は経験式で先を読む。電圧と温度を上げて時間を縮める試験(HALT)の土台には、寿命が電圧のべき乗と温度のアレニウス項で縮むという、プロコポヴィッツ=ヴァスカスの式がある。電圧の効きを表すべき指数はおおむね三から五、温度の活性化エネルギーは1〜1.45電子ボルトという実測が報告されている(NASA、査読論文)。同じ壊れ方をしているかぎり、ワイブル分布のかたち(形状係数)は応力で変わらず、特性寿命だけが応力で動く(NASA)。組成のわずかな差が寿命を桁で変えることもあり、ある加速試験では、同じ条件で故障までの時間が一秒未満から数十時間まで割れた例がある。材料と工程の細かな作り込みが、そのまま寿命のばらつきに表れる。
経時変化(エージング)も避けて通れない。強誘電体は、キュリー点を超える熱を受けてから冷えると、自発分極のまとまり(ドメイン)が時間をかけて落ち着いた配置へ移り、容量が時間の対数に比例して下がる。X7Rで十年あたり一割強が目安で、150℃で一時間半ほど熱を入れれば元へ戻る(Johanson)。基板のたわみによる機械的な力も侮れない。端子のすぐ上から斜め45度に走る「たわみクラック」は、薄くて容量の大きい品ほど出やすく、端子の構造や基板の設計で力を逃がす工夫がいる(TDK)。
容量と信頼性は引っぱり合う
ここまでの物理を一本にまとめると、設計と製造の現場で起きていることが見えてくる。容量を上げるとは、層を薄く、たくさん積むことであり、それは電界(V/d)の上昇と、層数による故障のかさ増しと、一層あたりの粒数の減少を、いっぺんに招く。どれも絶縁破壊と酸素空孔の劣化を速める向きに働く。高い容量と、高い信頼性の余裕は、物理として引っぱり合う。
だから現場の仕事は、容量を目いっぱい上げることではなく、容量と信頼性の綱引きをどう手なずけるかになる。定格の何割で使うかというデレーティング、実際に効く容量を実測前提で見込む設計、温度・電圧・経時の目減りを重ねて織り込む段取り――こうした規律が、部品の信頼性を成り立たせる。宇宙用のような高信頼の世界では、誘電体の最小厚みを定めたうえで、定格電圧の半分で使うといった厳しい下げ方を課す(NASA)。
村田の強さは、この綱引きを、一個ごとのばらつきを抑えたまま、兆個の規模でさばける点にある。
ばらつきの小ささが、そのまま競争力になる
特性のばらつきが小さいことは、二つの形で効く。ひとつは歩留まり。散らばりが小さいほど規格の枠に収まる割合が高く、不良が減る。高精度の製造ラインでは容量の偏差を±5%に抑え(広く使われる管理幅は±10%)、01005という極小品で歩留まり99%超を達成したという報告がある。もうひとつは選別後の等級だ。同じ規格でも、分布の山が締まっているほど、値打ちの高い等級に入る品が多くとれる。ばらつきの小ささは、品質の話であると同時に、原価と供給力の話でもある。
このばらつきの小ささを支えるのが、材料の内製と垂直統合だ。村田は、原料の配合、部品の設計、製造装置の開発、製造、計測、検査までを社内に抱え、チタン酸バリウムの粉を粒の大きさのレベルから自前で握る(村田 技術情報)。新しく参入する側には、これが重い壁になる。粉だけ、装置だけを外から買っても全体の性能は再現できず、装置そのものが社内開発であれば、装置メーカー経由でノウハウを買う抜け道もふさがれる。
顧客の側の慣性も、その壁を厚くする。いったん設計に組み込まれた部品は、ピン互換の代替品に差し替えるだけでも、再認定に十一週間かかったという実測がある(Mordor Intelligence)。車載向けの信頼性規格(AEC-Q200)は、−55℃から+150℃の温度サイクル、85℃・85%の高温高湿、機械的な衝撃と振動、千時間の寿命試験などを課す(AEC-Q200規格書)。自前の粉と、何年もかけた認定と、完成車メーカーの監査が積み上がると、供給が逼迫しても顧客は簡単には二社目へ移れない。材料・工程・評価が一体で、しかも言葉になりにくい勘どころとしてすり合わされていることが、競合がなかなか追いつけない本当の理由だ。
同じ土台が、AI・車載・高周波を貫く
小型化、電気的な安定、高密度の実装――この三つの土台は、市場が変わっても同じだ。AIサーバーでは、低いESLと大きな容量と小ささを同時に満たし、電源系のインピーダンスを下げる。車載では、同じ小型・高容量の技術に、温度・振動・長期の寿命という信頼性を上乗せする。電気自動車一台のMLCC搭載数は約一万から一万八千個で、エンジン車の三倍から五倍にあたる(773 Group)。高周波では、同じ積層誘電体の技術が、フィルターや整合回路のセラミック部品(高周波MLCCや低温同時焼成セラミックのフィルター)になる。高機能なスマートフォン一台のMLCCは約八百から千個を超え、つかむ通信の帯域が増えるほど数も増える(Mordor、TTI)。
どの市場も、結局は「小さくて容量が大きい」同じ品種を奪い合う。新しい製造ラインの立ち上げには一年半から二年かかり、急な増産がきかない(773 Group)。だから、ひとつの製造の土台に乗ったばらつき制御の力が、いくつもの成長市場の信頼性を同時に左右する。AIの電力密度の上昇と、車の電動化という二つの流れが、同じ部品の同じ品種に需要を寄せている。
村田の強さを一枚の絵にすると、よくできた部品の設計図ではなく、材料から信頼性までを貫く一本の規律になる。粉の粒をそろえ、酸素分圧の細い帯で焼き、薄い層に十分な数の粒を残し、一個ずつ選り分けてばらつきを締める。この地味な繰り返しを、兆個の規模で崩さずに続けられるか――日本のものづくりが長い時間をかけて磨いてきたのは、まさにこの種の力だった。記者の見るところ、AIの計算がどれだけ速くなっても、その速さは、目に見えない材料と工程の層が静かに支えている。派手な発明の陰で、そろえてつくり続ける力が、世界のAIの足元を受け持っている。